こんにちは 院長の伊藤です。

ウサギは尿中にカルシウムの結晶を多量に排出します。

餌の内容によっては、このカルシウムの結晶化が進行して、尿石症や砂粒症に至る場合があります。

本日ご紹介しますのは、尿道にこのカルシウム結石が生じて、尿道閉塞になってしまった症例です。

ネザーランドドワーフのルルちゃん(4歳2ヶ月、雌)は、食欲不振で他院を受診して食滞(毛球症)と子宮腺癌であろうとのことで4日間治療を受けていたのですが、症状の改善がなく当院に転院されてきました。

食欲不振の原因はいくつも挙げられます。

ウサギに限らず体調不良ならば食欲不振になります。

まず口腔内を診たところ、下顎臼歯が伸びて舌にあたり、若干の潰瘍巣が認められました。

胃内のガスも触診で若干貯留してるようです。

一番気になったのは尿臭が腐敗臭に転じている点です。

飼い主様に確認したところ、排尿がこの数日無いようであるとのこと。

レントゲンを撮ってみました。

下写真の黄色矢印・黄色丸をご覧ください。

尿道下部に球状の結石が認められます。

拡大写真です。

膀胱が目いっぱい蓄尿で膨大していないことから、尿道結石が完全に尿道を閉塞しているわけではないようです。

でも排尿はわずかに陰部を湿らす程度です。

今回のような尿道の下部に形成された尿石は、体全体をレントゲン撮影しないとフィルム上からはみ出て気付かない場合があります。

おそらくかかりつけの先生は、食欲不振という上告で胃腸だけにフォーカスを合わせてレントゲン撮影されたのでしょう。

尿道結石は見逃されて、この4日間に排尿障害による腎不全や尿毒症症状が起きている可能性があります。

ポポちゃんの衰弱は進行しており、血圧低下で採血も点滴のための留置針を入れることもできません。

わずかに取れた尿を試験紙で確認したところ尿素窒素(BUN)が40~60mg/100mlあり、腎不全・尿毒症の可能性も考えねばなりません。

非常に悩ましいケースですが、このままの内科的治療ではさらに衰弱する一方です。

早急に排尿障害を取り除く必要を感じました。

飼い主様のご了解を頂いた上で、外科的摘出を実施することにしました。

なるべく短時間の麻酔で摘出するように心がけます。

子宮腺癌の可能性も合わせて確認するために試験的開腹を行いました。

腫大した膀胱が顔を出し始めました。

膀胱内部は炎症のため出血してどす黒い色をしているのが外からでも分かります。

膀胱内で形成されたカルシウム尿石が尿道に降りていき、雪だるま式に大きくなって尿道閉塞に至ったかもしれません。

加えて子宮は特に問題はなく、子宮腺癌も子宮水腫も認められず産科系疾患の可能性はありません。

さて本題の尿石摘出です。

尿道の陰部に近い側に尿石は存在していますので、鉗子で把持出来るか確認します。

少し、硬いものに触れた感触がありますので物理的位置関係を確認するためにレントゲン撮影をします。

尿石近くにある鉗子を持っているのですが、少し尿道の奥に鉗子を入れすぎたようです。

また鉗子の軌道補正をします。

ちょうど鉗子の先端部が尿石と接触しています。

ここで上手く鉗子で尿石を把持します。

ここで尿石把持は成功しましたが、押しても引いても尿石は下に降りて来ません。

そこで、超音波発振装置で尿石を破砕するチップで把持した尿石に振動を与えます。

すると尿石が鉗子の引きに合わせて下に降り始めました。

下写真にありますように尿道は腫れて内出血をしており、尿石が顔を出しています。

摘出した尿石です。

直径が11㎜ありました。

麻酔覚醒後のルルちゃんです。

足元はふらついて、辛そうです。

麻酔覚醒後にICUに入って頂き、青汁を与えたところルルちゃんは飲み始めました。

この調子で回復できればと期待します。

手術の翌日、残念ながらルルちゃんは急逝されました。

4日間の処置が、結果として後手後手に回ってしまったのが悔やまれます。

ウサギに限らず丸一日でも排尿がなければ、異常であることに気付いて下さい。

尿石が出来る原因としては、

1:不適切な給餌、これは主原料がアルファルファである市販のフードを多量に与えることによります。

2:カルシウム、ミネラル、ビタミンを含んだサプリメントを与えること。

3:飲水量が少ないこと。

4:トイレやケージの掃除がしっかりできてないと、ウサギは長時間排尿を我慢し、それが尿石形成の原因になります。

2,3歳の若い個体でも尿石症になるケースはありますので、要注意下さい。

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