こんにちは 院長の伊藤です。

4月を迎えて、当院もフィラリア予防、狂犬病ワクチンの接種や春の健康診断などのイベントがあり、飼主様の受診までの待ち時間が長くなり、ご迷惑をおかけしております。

さて、本日ご紹介しますのはラットの線維腫です。

ラットの皮膚の腫瘍の中では、比較的一般的に発症するものです。

ラットのおこめちゃん(1歳3か月、雌、体重300g)は左前肢の腋下から上腕部に向けて腫瘤が出来たとのことで来院されました。

細胞診を実施したところ、マクロファージを主体とした炎症細胞の出現との診断を病理医から受けました。

しかしながら、その後1か月の間にも腫瘤は増大し、腫瘍の疑いも否めなくなりました。

飼い主様との話し合いで、結局のところ外科的に摘出することとしました。

いつものことですが、患部の細胞診と摘出組織の病理所見とは食い違うこともあります。

摘出後の腫瘤は病理検査に出すこととしました。

おこめちゃんに全身麻酔を施します。

麻酔導入箱におこめちゃんに入ってもらい、イソフルランを流します。

下写真の黄色丸に腫瘤が認められます。

麻酔導入が終了して、維持麻酔に変えます。

改めて、黄色丸が患部になります。

被毛を剃毛すると比較的大きな腫瘤であることがお分かり頂けると思います。

おこめちゃんの小さな体にたくさんのコードを装着しています。

これも生体情報(心電図、血中酸素分圧、血圧など)をモニターするために必要です。

皮膚を電気メスで切開して行きます。

腫瘤の大きさに合わせて、皮膚もマージンを十分取って切除したいのですが、患部が腋下から上腕部にかけてのエリアなので最小限に留めました。

腫瘤を鉗子で把持して上方に牽引します。

腫瘤と皮下組織を気を付けながら、バイポーラで剥離していきます。

下写真のように腫瘤へ栄養を運ぶ太い栄養血管が認められます。

大きな出血もなく無事、腫瘤を摘出しました。

摘出後の患部です。

皮下組織に腫瘤の浸潤は留まっていました。

皮膚縫合をして終了です。

ラットの場合、覚醒後の動きが素早く点滴も困難なため、皮下輸液を施します。

麻酔覚醒後のおこめちゃんです。

覚醒は速やかで手術は無事終了です。

摘出した腫瘤です。

2×2×2.5cmの大きさがありました。

ラットの小さな体からすれば、比較的大きなサイズの腫瘤です。

病理組織の所見です。

低倍率(40倍)の顕微鏡画像です。

中等度(100倍)の顕微鏡画像です。

高倍率(400倍)の画像です。

病理学的な診断名は線維腫でした。

線維腫の組織学的特徴は、成熟した線維細胞ないし線維芽細胞が豊富に膠原線維(コラーゲン)を産生しながら増殖します。

その膠原線維の配列は方向性が明瞭で、線維の束が織り込まれたような(花むしろ状)配列や渦巻き状の配列が見られることもあります。

線維腫は発育の遅い腫瘍で、完全摘出により治癒する良性腫瘍です。

今回のおこめちゃんの所見は、繊維芽細胞に類似した軽度の多形性は認められるものの、異型性に乏しい紡錘形細胞の錯綜状な増殖が認められました。

繊維芽細胞由来の良性腫瘍なので、摘出は完全であり、良好な予後が期待されるとの病理医からのコメントを頂きました。

おコメちゃん、お疲れ様でした!

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