こんにちは 院長の伊藤です。

去年の春先と比較して、今年は患者様の動きが早いです。

去年のコロナ禍以降、皆様の動向が多少安定し来て、以前のように繁忙期になってます。

フィラリア予防・狂犬病予防接種・春の健診などで、日によっては数時間待ちをお願いする場合もあり、ご迷惑おかけしています。

極力、患者様にストレスをおかけしないようスタッフ共々対応しますので宜しくお願い致します。

さて、本日ご紹介しますのはハムスターのリンパ腫です。

リンパ腫は血液の腫瘍、いわゆる造血器系腫瘍です。

血液を介して色々な臓器へ転移します。

特にゴールデンハムスターにおける悪性腫瘍の中で悪性リンパ腫が占める割合は20%台に達するという報告もあります。

当院のホームページでハムスターの疾病症例の中で、このリンパ腫については数例紹介していますので、興味のある方はこちらこちらをクリックして下さい。

ゴールデンハムスター(キンクマ)のおみつ君(雄、11か月齢、体重105g)は精巣が腫れてきたとの事で来院されました。

おみつ君は元気食欲はあるのですが、下写真のように精巣、特に左側が腫大しているのが分かると思います。

精巣を針生検して、院内で細胞診を実施したところ、間葉系の腫瘍細胞と思しき独立円形細胞が確認されたため、精巣腫瘍の疑いで外科的に摘出することとなりました。

全身麻酔を実施するため、ガスマスク内におみつ君を入れます。

おみつ君の麻酔導入が完了しました。

維持麻酔に切り替えて、患部を剃毛します。

生体情報モニターのセンサー等を装着しています。

左陰嚢にメスを入れます。

陰嚢皮膚と精巣は癒着しています。

精巣の著しい炎症が認められます。

バイポーラ(電気メス)を用いて陰嚢から精巣を剥離します。

精巣実質に傷をつけると出血が止まらなくなりますので慎重に剥離を続けます。

滅菌綿棒は鈍性に組織剥離する際に便利なため、活用する頻度が高いです。

精巣動静脈・精管をまとめて縫合糸で結紮します。

左精巣を切除した直後の写真です。

次いで、右精巣を同様にして摘出します。

結紮した精巣動静脈を外科剪刃で切除します。

両側精巣を切除しました。

切除部からの出血もなく、落ち着いています。

皮膚を縫合して手術は終了です。

麻酔から覚醒したおみつ君です。

ハムスターは覚醒と同時に暴れ出すことが多いです。

摘出した精巣です。

向かって、左側が右精巣で右側が腫大していた左精巣です。

検査センターで病理鑑定を依頼しました。

診断名はリンパ腫(中細胞型)でした。

犬やウサギと同様、精巣の腫瘍と思っていたので意外な結果でした。

下写真は中拡大の左精巣の病理写真です。

腫瘍細胞の一部が精細管間質へ軽度に浸潤しています。

下写真は高倍率像です。

腫瘍細胞は少量の好酸性細胞質、中型で円形から類円形の正染性核、小型の核小体を有しています。

腫瘍細胞の脈管浸潤像や被膜外へ露出する腫瘍細胞は認められないとのことです。

ハムスターのリンパ腫は皮膚型と多中心型が多いとされます。

皮膚型の場合は、重度の痒みと潰瘍、丘疹、脱毛です。

多中心型の場合は、腹腔内リンパ節の確認が困難なため、体表リンパ節の腫脹で鑑別診断します。

おみつ君の場合、残念ながら体表リンパ節の腫大はありませんでした。

術後、ステロイド(プレドニゾロン)の内服を開始し、患部の経過は良好です。

下写真は、術後1か月経過したおみつ君です。

縫合部の皮膚癒合は良好です。

下写真は3か月後のおみつ君です。

ステロイドの内服は継続して頂いてます。

患部は下毛も生えそろい、また体表リンパの腫大もなく、元気食欲は良好です。

リンパ腫はリンパ球由来の悪性腫瘍です。

ハムスターにおけるリンパ腫の発生はハムスターポリオーマウィルス(HaPyV)が関与している場合が多いとされます。

若齢から中年齢(4~30週齢)にかけて発症傾向が強く,HaPyV関連性リンパ腫の多くは腹腔内リンパ節に原発し、肝臓・腎臓・胸腺あるいは他の臓器へ浸潤するとされます。

今後、他の臓器への転移について経過観察が必要です。

おみつ君、お疲れ様でした!

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