レミングの耳垢腺癌(集団自殺説を含む)
レミングという動物をご存知でしょうか?
レミングはカナダ北部や北欧のツンドラ地方に棲息する小型齧歯類です。
体長は7~15㎝で体重は30~112gと報告されています。
冬眠はせず、越冬します。
体重の1.5倍の餌を毎日食べる大食漢だそうです。
このレミングは一定の周期で大量発生します。
不思議なことに大量発生の翌年には個体数が激減します。
こうしたレミングの極端な個体数の激増と激減は3~4年周期で起こるそうです。
大増殖した結果、レミングは新たな住処と餌を求めて集団移住をします。
その集団移住時に一部の個体が海に落ちて溺れ死ぬことがあり、この事象を以てしてレミングの集団自殺説が広がっています。
集団で川を渡ったり、崖から海に落ちる個体がいたりで絵的にはハメルーンの笛吹き男を彷彿とさせます。
加えてレミングの集団自殺説に拍車をかけたのがウォルト・ディズニーのドキュメンタリー(白い荒野)でレミングが崖から落ちるシーンや溺れ死んだ大量のレミングのシーンを上映したそうです。
実際は、自殺説は関係者の思惑による捏造で、あくまで集団移住時の事故であるとの見解が現在はなされています。
前説が長くなって申し訳ありません。
そんなレミングですが、本日ご紹介しますのは琥太郎君(3歳、雄)です。
琥太郎君は右頬が潰瘍になって肉がむき出しになっているとのことで来院されました。
下写真にありますように痛々しい状態です。
写真では撮影していないのですが、外耳道の末端部が潰瘍上になっており皮膚を穿孔して頬まで炎症が拡大しているようです。
患部を早速、細胞診しました。
上写真の黄色丸で囲んだ細胞群は、好塩基性の細胞質と著しい大小不同を呈する大型類円形核を有しています。
これは、以前同じく小型齧歯類のジャービルの腫瘍症例で報告した細胞と非常に似ています。
興味のある方はこちらをご覧ください。
腫瘍の発生部位から耳垢腺癌と診断いたしました。
この時点で琥太郎君は全身状態は良好で、お持ちいただいたケージ内の回し車で遊んだり出来ていました。
外科的な処置は不可能なので、内科的治療で経過を見ていくこととしました。
抗癌作用のあるD-フラクションや抗生剤の投薬を処方しました。
この5日後に残念ながら、琥太郎君は急逝されました。
レミングもジャービルも発症する腫瘍は同じであることを再確認させられました。
いろんな伝説と誤解の中で翻弄されてきたレミングですが、私からみると愛くるしい1小型齧歯類です。
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