新米獣医師カーリーのつぶやき-part38-~胸水・腹水~
こんにちは、獣医師の苅谷です。
台風の後、日本は高気圧に覆われ、気温も高い日が続きますね。
関東では気温30度を超す真夏日になっているそうです。
熱中症が出始める時期になってきましたので注意が必要ですね。
今回は体の胸の中やお腹の中に水(貯留液)が溜まってしまう胸水・腹水についてお話しします。
聴診や触診、レントゲンをとってみて他の臓器が見えないほど白くなっているという時に胸やお腹に水が貯留していることがわかります。
そして、この貯留液はその原因や性状から3種類に分けられます。
毛細血管やリンパ管から水分が漏れ出してしまう漏出液と炎症(いわゆる体が病気を治そうとする免疫反応)によって滲み出る滲出(しんしゅつ)液とその性質が中間の変性漏出液があります。
まず漏出液についてお話しします。
漏出液は血液中のタンパクなどの成分が低くなってくると浸透圧が周りの組織に比べて低くなります。
浸透圧とは異なった濃度の液体を並べると同じ濃度になろうとする力のことを指します。
特に物質の移動の制限がなければ、同じ水分量・タンパク量になってくるのですが、タンパクのような物質は血管の外へ通常移動することはないため、水分のみが移動します。
この濃度の均衡がとれるまで水分が漏れ出していきます。
このため、漏出液は細胞成分が少なく、タンパク量も少ないため、比重も小さく、どちらかというと透明でさらさらとした液体になります。
次に滲出液についてお話しします。
通常、白血球やタンパクは血管の外に出ることができませんが、炎症が起こった場合、血管に隙間ができ、その炎症が起こっている部分に白血球たちが移動し、免疫反応を起こします。
この時血液中の液体成分も一緒に出ていきます。
もし胸の中やお腹の中に炎症があった場合(腹膜炎など)、白血球を含む液体が滲み出し、水が溜まることになります。
そのため、滲出液は細胞成分が多くタンパク量も多いため、比重が大きく、どちらかというと色味がついた少し粘チョウ性のある液体になります。
最後に変性漏出液についてお話しします。
これはうっ血性心不全といった血液の流れが滞る病気にて起こってきます。
心不全になってくると血液がうまく循環しなくなるため、静脈内の血液量が増えてきます。
この血液量が静脈のキャパシティを超えてしまうといわゆる決壊してしまった状態になり、液体が漏れてきます。
また腫瘍の場合、腫瘍自体の血管への物理的圧迫や腫瘍への炎症反応で胸やお腹に水が溜まってきます。
胸水も腹水も病気の一端にしかすぎません。
これを治していくには大元の病気(感染症や心疾患、腫瘍など)を治していく必要があります。
胸水や腹水からの情報やそのほかの情報より大元の病気を見極め、治療できるように精進していきたいと思います。
最後に胸やお腹の貯留液は色などの性状、その比重だけではなく、その中にどのような細胞があるかを確認します。
まずは白血球のリンパ球と好中球です。
上の青矢印の円形の核と細胞質を持った細胞がリンパ球です。
下の黄矢印の葉っぱのような紫色の核と円形の細胞質を持った細胞が好中球です。
次に中飛細胞です。
中皮細胞とは胸腔や腹腔(と心嚢)の表面を覆う膜を構成する細胞のことです。
つまり胸やお腹の中の臓器を表面を覆っている細胞のことです。
最後に腫瘍です。
こちらは一番初めに紹介したリンパ球の腫瘍細胞でリンパ球に比べて、大きく、核が淡い紫色になっています。
今回は以上で終わります。
胸やお腹に溜まった水でこんな風に分けられるんだと思った方は
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