犬の肛門腫瘍とレーザーメス
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の肛門腫瘍です。
シーズーのマロン君(去勢済、11歳7か月)は4年位前から肛門に腫瘤が認められ、次第に大きくなってきました。
肛門周囲腺腫の疑い(下写真黄色丸)があり、7歳の時点で去勢手術を実施いたしました。
去勢手術の効果を期待したのですが、腫瘤は少しずつ大きくなり、新たに別の腫瘍(白丸)も出て来ました。
本来、細胞診を実施してから外科的切除に至ります。
ただ肛門腫瘍の場合は、細胞診では悪性・良性の鑑別は確実性に欠けると言われています。
すでに腫瘍は大きくなっており、切除してから病理検査に出すことにしました。
消毒後の患部です。
患部から6時方向にある腫瘍は、牽引しますと蔓が伸びる感じで栄養血管を含んだ茎状の組織(下写真黄色矢印)が認められます。
半導体レーザーに装着するプローブの種類は多く、血管や管腔臓器を切断する時に使用するユニバーサルバイポーラー(下写真)を6時方向の腫瘍に使用しました。
血管ならばこのバイポーラ-で4mm径までシール切断が可能です。
下写真の黄色矢印がユニバーサルバイポーラです。
腫瘍の茎にあたる部位を挟んで切断をしていきます。
こんな感じで切断します。
茎の中の栄養血管も完全にシールされて出血は認められません。
次に腫瘍本体の切除ですが、チゼルハンドピース(下写真黄色矢印)を使用しました。
これで切除完了です。
次に九時方向の腫瘍です。
この腫瘍は細径コニカルプローブ(下写真黄色矢印)を使用して切除します。
こちらの腫瘍は、浅在性で底部周囲組織への固着は認められません。
レーザー切除の煙が漂っていますが、これで腫瘍切除は終了です。
九時方向の腫瘍切除後の皮膚縫合を行いました。
これでお尻周りがすっきりしたね、マロン君!
摘出した腫瘍を病理検査に出しました。
6時方向の腫瘍の病理所見です。
低倍率です。
高倍率です。
こちらの腫瘍は肛門周囲腺上皮腫と診断されました。
軽度の異型性が認められ、悪性腫瘍です。
単発性の腫瘍で、大きくなる前に摘出できて良かったです。
次に9時方向の腫瘍です。
低倍率です。
高倍率です。
こちらの腫瘍は、肛門周囲腺腫であることが判明しました。
肛門腫瘍の中で肛門周囲腺腫の発生率は80%以上を占めます。
肛門周囲腺腫は、雄で非常に多く発生し、雌では稀です。
高齢で未去勢の雄に認められ、アンドロジェン依存性が高いとされてます。
この肛門周囲腺腫は良性腫瘍であり、数か月から数年かけて次第に増大していきます。
増大する一方で、患部は通常無症候性で痛みを伴うことは少ないとされます。
肛門周辺は血管が豊富に集まっており、加えて肛門腫瘍にはさらに栄養血管が集結しています。
したがって外科的摘出にあたり、出血量は多量になる場合があります。
今回、使用した半導体レーザーは出血を極力抑えることが可能であり、それは手術時間の短縮にもつながります。
マロン君、お疲れさまでした!
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