こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ハリネズミのエナメル上皮腫という腫瘍です。

エナメル上皮腫と言うのは、歯に関わる歯原性腫瘍です。

本来、歯に発生すべきエナメル上皮腫が別の場所に発生した(異所性)症例です。

ヨツユビハリネズミのハリボウ君(雄 2歳 体重)は左耳根部に腫瘤が出来ているとのことで来院されました。

下写真黄色丸が腫瘤を示しています。

腫瘍の可能性がありますので、まずは細胞診を実施しました。

その結果が、上皮性の腫瘍が疑われるとのことでした。

飼い主様の了解を頂き、外科的に摘出切除を行うことになりました。

いつものごとく麻酔導入箱にハリボウ君に入ってもらい、イソフルランで麻酔導入します。

ハリボウ君は麻酔が効いてきて横たわり始めました。

早速、自家製のマスクに付け替えて維持麻酔を行います。

患部を剃毛しています。

ハリボウ君の小さな体に生体情報(心電図や血中酸素濃度など)のモニタリングためのセンサーを装着します。

腫瘍が顎の付根あたりまで浸潤していますので、下顎動脈や顔面の神経にまで及んでいないか心配です。

何しろ、せいぜい術野は1㎝と確保できない状況です。

下写真の黄色丸を腫瘍切除ラインとします。

出来る限り、切除のマージンは広めに取ります。

腫瘍の根の部分を見落とさないように電気メス(バイポーラ)で切除していきます。

幸いなことに筋肉層まで腫瘍は浸潤してませんでした。

切除後の皮下組織です。

出血も最小限に留めることが出来ました。

ハリネズミの場合、針が密生している部位に腫瘍ができる場合があります。

その場合、針を抜きながらメスを入れるエリアを確保する必要があるため大変です。

今回は幸い、針の生え際に出来た腫瘍のため針抜きせずに済みました。

皮膚の縫合が終了したところです。

麻酔から覚醒したハリボウ君です。

手術は無事終わりました。

切除したエリアはそれなりの大きさがありましたが、皮膚縫合で耳根部が尾側に牽引されることなく済みました。

摘出した腫瘍です。

弾力性のある膨隆した組織です。

細胞診だけでは不安なので病理検査に出すことにしました。

病理検査の結果はエナメル上皮腫と言う腫瘍であったことが判明しました。

前述の通り、エナメル上皮腫は歯の細胞が腫瘍化したものです。

具体的には、歯胚(しはい:歯の芽)のなかのエナメル器と呼ばれる部分が腫瘍化することにより生じます。

ヒトでは歯原性腫瘍の中で頻度の高い良性腫瘍とされ、顎骨の中で腫大します。

良性とは言え、手術による摘出の適応となります。

ハリボウ君の場合は、本来ならば顎の骨に出来てしかるべきエナメル上皮腫が耳の付根に発生したということになります。

おそらく歯の原基が胎生期にこの部分に迷入して腫瘍化したものと推察されます。

下写真は病理標本の低倍率像です。

青く染色されている部分がエナメル上皮腫です。

下画像は中拡大像です。

異型性の乏しい類円形・円柱細胞が索状に増殖し、その間隙を紡錘形細胞がシート状に増殖してます。

この二相性増殖により、エナメル上皮腫が特徴づけられます。

腫瘍細胞は、少量の弱好酸性細胞質、均一な大きさの類円形正染核、不明瞭な核小体を有しています。

今回は、異所性の腫瘍と言うことで珍しい症例と思われます。

病変部は完全に摘出されているとの病理医からの報告がありましたので、再発はないと思われます。

ハリボウ君、お疲れ様でした!

 

 

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