こんにちは 院長の伊藤です。

本日は腹腔内臓器摘出術の中でも、比較的高頻度に実施されている脾臓摘出術についてコメントさせて頂きます。

脾臓はリンパ系器官の中で最も大きな臓器です。

脾臓はどんな働きをしているかというと

1:血液の濾過

2:血液の貯蔵

3:免疫機能

4:造血

以上です。

そんな頑張っている脾臓ですが、全摘出術の適応となるのは原発性脾臓腫瘍や重度外傷による脾臓破裂です。

脾臓疾患の症状は、一般的にあいまいで脾臓疾患に特異的な症状はありません。

強いて挙げれば、突然の元気消失、嘔吐、体重減少、貧血です。

チワワのモカ君(11歳、雄)は突然の食欲不振、元気消失で来院されました。

血液検査ではCRP(炎症性蛋白)が4.3mg/dlと上昇している点が気になります。

他の血液検査項目は特に異常点はありません。

レントゲン検査を実施しました。

上の写真の黄色丸の箇所が円形に大きく腫大した腫瘤を表しています。

臓器の位置関係からすれば脾臓か、腸間膜リンパかといったところでしょうか。

その大きな腫瘤を超音波検査しました。

均一な微細斑点状の内部エコーを示す限界明瞭な低エコーの腫瘤が描出されました。

腫瘤エコーは脾臓エコーと連続性を持ち,脾臓の一部である画像所見が得られました。

恐らくこれは、脾臓の内部で出血をして腫大しているか、もしくは血管肉腫のように脾臓に生じる悪性腫瘍の可能性もあります。

この腫瘤が脾臓の腫瘍であった場合、脾臓全摘出して病理検査に出さないと悪性か良性かは不明です。

悪性であれば、血管肉腫や脾臓リンパ腫や内臓型肥満細胞腫であることが多いです。

腫瘍でなければ、結節性過形成の可能性もあります。

仮に結節性過形成であるとしても、腫瘤が大きくなれば腹腔内で破裂して死亡するケースもあります。

細胞診で患部を穿刺して確認する方法は、これが血管肉腫であった場合、禁忌とされます。

脾臓を穿刺することで患部から出血が止まらなくなったり、腹腔内に腫瘍をばらまくことになるので、開腹して肉眼で確認する方法が確実です。

いずれにせよ、試験的開腹を実施することとしました。

全身麻酔下のモカ君です。

皮膚、皮下組織、腹筋、腹膜にメスをいれて腹腔内が露出した時、大きな腫瘤が飛び出てきました(下写真)。

明らかに脾臓に形成された腫瘤です。

良く見ると2か所大きな腫瘤があり、腫瘍の可能性がありますし、部分的に切除しても境界面が不明瞭ですから全摘出することとしました。

脾臓は胃に沿って存在しており、摘出する場合は短胃動静脈、左胃大網動静脈、脾動静脈など多くの血管を縫合糸で結索して離断していきます。

当院では、バイクランプですべての血管をシーリングしていきます(下写真)。

これだけでも手術時間の短縮につながりますし、不整出血を防ぐこともできます。

すべて合わせて1時間以内に手術は終了しました。

覚醒時のモカ君です。

摘出した脾臓です。

下写真の黄色丸の部分が腫瘤です。

この腫瘤が腫瘍なのか確認するため、病理検査に出しました。

下写真は患部の顕微鏡写真(低倍率)です。

大小不整なリンパ濾胞と間質増生、うっ血、出血で構成されています。

下は高倍率の写真です。

リンパ濾胞を形成するリンパ球は多様で、単一系統の異型細胞の増殖は認められません。

つまり腫瘍細胞は認められませんでした。

腫瘤部以外の脾臓には、うっ血と髄外造血が認められました(下写真)。

病理医の結論は、脾臓の結節性過形成との診断でした。

結節性過形成は老齢犬にしばしば認められる非腫瘍性の病変です。

しかし、放置すると過形成リンパ組織がさらに融合していき、より大きな腫瘤となって脾臓破裂の原因になります。

結局、脾臓全摘出がベストの選択肢であり、全摘出後の予後も良好とされます。

脾臓は全摘出して大丈夫なの?

よくその質問を受けます。

脾臓の機能は他の臓器で代償できるものが多く、脾臓が必ずしも存在しないと命の維持に問題が生じるかというとそうでもありません。

ただ免疫介在性疾患や寄生性疾患の反応で腫大している脾臓は内科的治療を選択すべきとされてます。

モカ君の術後の経過は良好で、術後に食欲は戻り、1週間後に無事退院されました。

退院時のモカ君です。

お腹もすっきりして良かったね!

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