デグーマウスのリンパ腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、デグーマウスのリンパ腫です。
リンパ腫は血液の腫瘍です。
白血球中のリンパ球がガン化して発症します。
発生する部位はリンパ系組織とリンパ外臓器に分かれます。
リンパ系組織はリンパ節、胸腺、脾臓、扁桃などです。
リンパ外組織は骨髄や肺などの臓器です。
リンパ系の組織は全身に分布していますので、リンパ腫は全身どの部位でも発症する可能性があります。
デグーマウスのたけちゃん(雄、3歳、体重185g)は左の頚部に大きな腫瘤が出来て、頭部の動きもままならないとのことで来院されました。
下写真、赤矢印の部位が問題の腫瘤です。
細胞診を実施しましたが、細菌と炎症系の細胞(白血球やマクロファージ、リンパ球)が大部分を占める構成であり、腫瘍細胞は確認できませんでした。
エキゾチックアニマルの場合、腫瘤の表層部は、自ら掻破したりして細菌感染を起こしている場合が多いため、腫瘍自体が基底部に隠れている場合もあります。
腫瘍が大きすぎるということもあり、首を曲げての摂食も満足に出来ません。
少しでもたけちゃんのストレスを軽くしたいという飼主様の意向です。
結論として、腫瘍を可能なだけでも外科的に摘出するということになりました。
たけちゃんを全身麻酔します。
イソフルランで麻酔導入を行います。
この大きさの腫瘤(下写真黄色丸)になりますと前足で餌を把持することは困難と思われます。
麻酔導入が効いて来たようです。
腫瘤が大きいため、横になっても頭部が持ち上がってしまいます。
イソフルランを維持麻酔に変えて電極版の上にたけちゃんを乗せます。
腫瘍で顔面が隠れてます。
電気メス(モノポーラ)を使用して腫瘤の外周から皮膚を切開して行きます。
続いてバイポーラを使用して皮下組織を止血・切開します。
表層部の腫瘤(下写真黄色矢印)は硬結した脂肪組織のようです。
その下の腫瘤層(下写真白矢印)は血管に富んだ脆弱な組織です。
この脆弱な腫瘤の裏側には太い動脈が走行していましたので、バイクランプでシーリングします。
さらに続いて、バイポーラで切除を続けます。
切除出来る範囲の腫瘤を摘出完了しました。
すぐ下には頸静脈が走行しています。
思いのほか、根深い腫瘤でしたので広範囲の皮膚を切除することとなりました。
そのため、皮膚縫合のための縫い代を十分に取るため、皮膚と皮下組織の間を外科剪刃で鈍性に剥離していきます。
耳根部にまで切除域が及んでいます。
5-0ナイロン糸で皮膚を縫合します。
縫合部の緊張が高いと皮膚が簡単に裂けてしまうため、かなり細かく縫合します。
皮膚縫合は終了です。
麻酔から覚醒直後のたけちゃんです。
縫合部の血行障害もなさそうです。
摘出した腫瘤です。
直径5㎝ほどありました。
下写真は腫瘤の表層部です。
腫瘤の裏側から見た写真です。
病理検査に出した結果、大細胞型リンパ腫との診断でした。
高倍率の写真です。
独立円形細胞腫瘍が認められます。
核仁が明瞭で、核の大小不同を示しています。
核の分裂が非常に活発で増殖活性の高い腫瘍であるため、摘出した患部の局所再発は免れないであろうとの病理医からのコメントを頂きました。
加えて、体腔内臓器への腫瘍の波及も考慮する必要があります。
たけちゃんの術後経過は患部の疼痛のためか、食欲不振が認められました。
縫合部が広範囲にわたってるため、縫合糸で口が引っ張られて、左側の開口運動がしづらそうです。
大きな腫瘍を摘出できたので、四肢の動きは円滑に出来るようになりました。
残念ながら、術後4日目にして、たけちゃんは逝去されました。
リンパ腫ですから体腔内に腫瘍の転移もあったでしょうし、手術前までギリギリのところで頑張っていたのだと思います。
今回はリンパ腫という全身性の腫瘍ですから、外科的な皮膚腫瘍摘出で全ての治療が終了とはいきません。
おそらく、たけちゃんの術後経過が良好でも、化学療法が必要となったと思われます。
とにかく小さくても腫瘍の可能性を感じられたら、病院を受診して下さい。
小さなエキゾッチクアニマルであるほどに、早めの対処をすべきだと思います。
何しろ、犬の体表面積の何十分の1という小さな動物達です。
特に外科的摘出で解決できる腫瘍であるほどに、小さなサイズの腫瘍であれば、腫瘍の種類によりますが完治の可能性はあります。
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