チンチラの腸重積(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはチンチラの腸重積の症例です。
チンチラの場合、下痢や便秘によるしぶり(いきみ)が原因で腸重積や直腸脱が発症します。
腸重積とは、腸管の一部が連続する腸管の肛門側に引き込まれてしまうことによって生じる病気です。
例えとして、釣竿を折りたたむような感じで腸が腸に入り込むような感じと言えば、イメージして頂けるでしょうか?
進行すると腸管の血行不全で壊死を来します。
腸重積は緊急手術が必要になることも多いです。
腸が壊死していれば切除後、腸管吻合が必要となり、予後不良となることもある怖い疾患です。
チンチラのぐりちゃん(雌、10か月齢、体重490g)はお尻から腸が出ているとのことで受診されました。
下写真黄色丸は直腸が脱出しているのを示します。
拡大像です。
直腸が脱出して、充うっ血しており痛々しい感じです。
レントゲン撮影を実施しました。
盲腸にガスの貯留が認められます。
おそらく腸蠕動の障害があるように思われます。
単純な直腸脱ならば、整復処置を施し肛門に支持糸をかけて経過観察となります。
しかし、腸重積の場合は開腹手術となりますので、まずは綿棒を用いて腸重積の確認をします。
下写真のように綿棒を2本やさしく肛門と脱出してる直腸の間隙に挿入します。
約2㎝ほど綿棒は、この間隙に容易に入りました(下写真黄色矢印)。
直腸脱の場合は、この間隙は形成されませんので、腸重積の疑いが強いです。
腸重積の場合、緊急手術が必要となります。
飼い主様の了解を得て、早速開腹手術に移ることとなりました。
イソフルランによる麻酔導入を行います。
維持麻酔に切り替え、患部の剃毛処置を実施します。
ぐりちゃんの麻酔が安定してきたところで、手術のスタートです。
開腹手術に移ります。
腹筋を切開します。
膀胱は蓄尿が著しいため、膀胱穿刺して尿を吸引します。
ピンセットで確認しているのは、ぐりちゃんの子宮です。
直腸へ綿棒を挿入して、開腹した腹腔内の腸の動きを観察します。
触診すると硬くなって、動きが認められない小腸の部位がありました。
指先ではこの部位だけ太く、周囲からの血管も怒張しているのが分かります(下写真)。
下写真青丸は盲腸です。
黄色矢印は空回腸の盲腸へと移行する部位です。
この部位が腫脹し、触診で硬く感じられます。
この部位が腸重積を起こしている可能性があり、綿棒で持ち上げて周囲の余分な組織を分画していきます。
患部を脂肪組織が取り巻いているため、丁寧に切除します。
脂肪組織などを取り除いていくと赤く腫れた空回腸が現れました。
下写真の黄色丸は釣竿を折りたたむようにして、腸の中に腸が入り込んでいます。
患部を上方に牽引すると重責部が明らかになりました。
重責部を優しく、さらに牽引してみます。
重責部を伸展すると血行不良で充うっ血が確認できます(黄色矢印)。
患部(下写真黄色丸)は壊死が進行しているようです。
下写真の充うっ血色の部位を切除して、正常な腸管を吻合することとします。
切除する上流の腸に支持糸を掛けます。
外科鋏で壊死している腸管を切除します。
次いで、離断した腸管の断面同志を端・端並置縫合します。
縫合に使用する縫合糸は5-0のモノフィラメント合成吸収糸です。
チンチラの腸管内腔は、せいぜい3㎜程度なので縫合には細心の注意を払います。
腸管の全周を6か所縫合しました。
腸管縫合終了です。
支持糸を外して、患部を生理食塩水で洗浄します。
腹筋を縫合しています。
最後に皮膚縫合をして手術は終了です。
全身麻酔から覚醒したばかりのぐりちゃんです。
手術後、ICUの部屋に入ってもらいましたが、辛そうです。
今回、切除した小腸を調べてみました。
うっ血して腫脹しています。
断端を綿棒で抑えて、ピンセットで反対方向へ腸を牽引します。
腸管内に入り込んだ腸がズルズルと出て来ます。
腸が入り組んでいた箇所(下写真黄色矢印)が重責を起こしていた部位となります。
重責部は壊死を起こしていました。
術後翌日のぐりちゃんです。
食欲は少しづつ出てきて、青汁を自ら飲み始めました。
チモシーのような乾草を給餌すると縫合部に負荷を極端にかけますので、しばらくは青汁や強制給餌用のライフケア®などで給餌します。
運動性も出て来ましたので1週間入院の後、ぐりちゃんには退院して頂きました。
肛門から出ていた腸も無事納まりました。
腸重積は、直腸脱と誤認されるとその治療のため何日も経過してから、あわてて実は腸重責であったと気づいた時には、もう手遅れになっていることが多いです。
チンチラは小さな体の繊細な動物なので、長時間に及ぶ疼痛やストレスには耐えられません。
肛門から腸が飛び出していたら、早急に受診されることをお勧めします。
ぐりちゃん、お疲れ様でした!
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