フェレットの潰瘍性舌炎
こんにちは 院長の伊藤です。
本日、ご紹介しますのはフェレットの舌炎です。
比較的、フェレットでは遭遇する機会の少ない症例と思われます。
歯周病に伴い、歯肉口内炎へと発展するケースは多いのですが、今回は特にその発症原因が不明です。
ただ舌が潰瘍を起こし、続発的に肉芽組織を形成し、それが口腔内で障害物(腫瘤)となり摂食出来なくなったケースです。
フェレットのむうちゃん(体重500g、避妊済、3歳)は、舌が腫れて食餌が十分に取れないとのことで来院されました。
開口して口腔内を確認しました。
下写真の黄色丸がむうちゃんの舌です。
青矢印が下の側面に生じた腫瘤を示します。
左側面の画像です。
舌の右側面に発生した腫瘤(黄色丸)であることが分かります。
この腫瘤(下写真黄色矢印)はかなり大きく一旦口腔外に出すと数センチに及ぶ大きさであることが判明しました(青矢印は舌を示す)。
これだけの大きさの腫瘤が口腔内に存在するだけでも、食餌の咀嚼に障害になり、水も十分に飲めないと思います。
以前は900g近い体重があったむうちゃんが、現時点で500gまで落ちてるのもこの腫瘤が原因かもしれません。
腫瘤の先端部(黄色矢印)はクリーム色に変色しており、細菌感染を伴う潰瘍が認められます。
舌と腫瘤の境界面は茎状の組織で連携しているようで、切除分離は容易に出来そうです。
摂食行動が一日も早く出来る様にするため、外科的切除をお勧めしました。
細胞診も重要ですが検査に外注したら結果が判明するのに1週間はかかります。
切除した腫瘤を病理検査に出して確認した方が、迅速な対応が可能と考えました。
早速、むうちゃんに全身麻酔を実施します。
麻酔導入箱に入れてイソフルランで導入麻酔します。
麻酔導入が完了し、マスク麻酔に切り替えます。
腫瘤を口腔外に出します。
むうちゃんの全身麻酔は安定してきました。
腫瘤を牽引するための支持糸をかけます。
腫瘤と舌との連携部を明らかにするために必要です。
腫瘤と舌との連絡は扁平状の組織で繋がっています。
その幅は約10mm位です。
この腫瘤自体が腫瘍である可能性もありますので、舌から太い栄養血管が走行している可能性もあります。
そのため、腫瘤と舌との連携部をバイクランプでシーリング(下写真)します。
連携部が熱変性しているのを確認して硬性メスで離断します。
メスを入れたところ、特に出血もなく離断完了です。
離断部を青矢印で示します。
バイクランプで切除部の一部が火傷になりました。
切除部辺縁は特に縫合せずに肉芽形成を待つこととします。
下写真黄色丸が切除した腫瘤です。
大きさは10×10×2mmありました。
これだけの大きさの腫瘤は摂食障害になります。
麻酔からの半覚醒状態のむうちゃんです。
完全に覚醒しました。
切除した腫瘤の表側と裏側の写真です。
下写真は低倍率の病理像です。
広範囲にわたり潰瘍化に伴う粘膜下における、びまん性重度の炎症細胞浸潤が認められます。
高倍率の病理像です。
好中球、組織球、リンパ球、形質細胞が混在した炎症細胞浸潤像、間質における繊維芽細胞、水腫、粘液沈着が特徴です。
明らかな腫瘍性病変、感染性病原体、異物は認められませんでした。
病理診断名は潰瘍性舌炎でした。
退院時のむうちゃんです。
特に摂食行動は正常で問題ありません。
1週間後のむうちゃんの口腔内です。
下写真黄色丸は切除跡ですが、肉芽が形成され修復が確認されます。
今回、何が原因で舌の側面に肉芽組織が形成されたかは不明です。
可能性としては、外傷か唾液腺破綻などが原因かもしれません。
口の中の邪魔な腫瘤が無くなって、十分食餌も取れるようになり、500gの体重が術後1週間で800gに戻りました。
むうちゃん、お疲れ様でした!
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