ミーアキャットの皮膚外傷
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ミーアキャットの皮膚外傷で外科的に縫合した後、肉芽形成を促し完治した症例です。
ミーアキャットは、哺乳綱食肉目マングース科スリカータ属に分類される食肉類であり、アフリカのサバンナや荒れ地に広く生息します。
体の長さはおよそ30cm、尾の長さは20cmほど。体重はおよそ600~900gくらいです。
野生のミーアキャットは最大で40頭ほどの群れになり、地下に巣穴を掘って生活しています。
群れとしての団結力が強く、独特な立ち姿で猛禽類やジャッカル等から警戒活動をします。
太陽に向かって尾を支えにして直立し、体を温める習性が特徴的です。
肉食よりの雑食で、虫(カブトムシやイモムシ、クモ、サソリ)や爬虫類、鳥や卵、小型のげっ歯類、果物などを食べています。
ミーアキャットはまだペットとして飼育する家庭は少なく、正しい飼育法も確立されていないのが現状です。
野性味が強く、突然攻撃的(噛んだり、鋭い爪で引掻く)になったり、群れで生活する動物なので単独飼育ではストレスを感じることが多いとされます。
そんなミーアキャットですが、同居している猫と喧嘩して前足を怪我したとのことで来院されました。
ミーアキャットのぽぽちゃん(生後3か月齢、雌、体重450g)ですが、前足の皮膚が咬傷で皮膚ごと剥離しています。
右前腕部の皮膚が咬まれて開放創になっています(下写真黄色丸)。
前腕骨へのダメージがないかレントゲン撮影をしました。
患部の拡大像です。
幸いに骨損傷はなく、前腕部の軟部組織の外傷で済んでいます。
思いの外、傷口が広いので全身麻酔を施して皮膚縫合します。
麻酔導入箱にぽぽちゃんを入れて、イソフルランを流入させます。
受傷部が痛々しいです。
患肢を疼痛のため、常時拳上しています。
麻酔導入が効いて来たようで、ぽぽちゃんが横たわりました。
麻酔導入箱の蓋を開けたところです。
速やかに外に出して、維持麻酔に切り替えます。
仰臥姿勢に保ちます。
患部周辺をバリカンで剃毛します。
ミーアキャットの被毛は密で柔らかいため、剃毛が難しいです。
加えて、皮膚が欠損しているため緊張をかけての剃毛が難航しました。
最後にカミソリで剃毛します。
傷口に入り込んだ被毛を洗い流し、患部を清浄化するために何度も生食で洗浄します。
手根関節(手首)の真上から肘方向(近位端)へ広範囲の皮膚欠損です。
捲れあがった皮膚を外科鋏でトリミングします。
5-0ナイロン糸で縫合します。
ミーアキャットの皮膚は犬と猫の中間くらいの弾力性を示しますが、皮膚の薄さはウサギに近い感じです。
皮膚に分布する血管の流れを阻害しない範囲で密に縫合します。
あまり緊張(テンション)を加えて皮膚縫合すると血行障害を来し、皮膚癒合する前に創縁が壊死を起こし縫合は未遂に終わります。
皮膚欠損部の両端は縫合出来ましたが、中央部は皮膚の縫い代が確保できず厳しい状態です。
開創部が皮膚縫合でカバーできない場合、生体は欠損部に肉芽組織を形成して、やがて皮下組織や皮膚に肉芽組織は分化して、回復の経過をたどります。
結局、中央部は開放創のまま(下写真黄色矢印)で肉芽組織を形成させる方針でドレッシング材(創傷被覆材)を使用することにしました。
今回の様に浅い創傷部の場合は、患部を生食で洗浄を繰り返し、創傷内に残った異物・組織片を取り除き(デブリードマン)、そしてドレッシング材で患部を被覆して最終的に肉芽組
織が増殖し、皮膚組織に分化させ治療は終了となります。
ドレッシング材は、ポリウレタンフィルムドレッシング、ハイドロコロイドドレッシング、ハイドロポリマードレッシング、ハイドロジェルドレッシングあるいは食品包装用ラップ
(サランラップ等)など各種あります。
今回はドレッシング材としてメロリン®を使用しました。
メロリン®はコットン・ポリエステル繊維を多孔性ポリエステルフィルムとポリエステル不織布で挟み込んだ3層構造を持つ非固着性吸収性ドレッシング材です。
このように各種ドレッシング材は存在します。
結局のところ、肉芽組織を良好に導入・形成・分化させるための、創面の清潔性・適度な湿潤環境の提供の目的でドレッシング材を使用します。
下写真は開創部にイサロパン®を散布しています。
このイサロパンは損傷皮膚組織の修復作用と分泌物の吸着による患部の乾燥化作用により治癒を促進する外用散剤です。
次いでメロリン®を患部のサイズに合わせてカットします。
患部(開創部)にメロリン®を貼付します。
紙ガーゼと粘着テープでテーピングして終了です。
抗生剤や止血剤を皮下注射します。
イソフルランを切り、酸素を吸入させます。
覚醒したぽぽちゃんです。
ひとまず手術は無事終了しました。
今後の開放創の肉芽形成を継時的に経過観察していきます。
術後1週目のぽぽちゃんです。
患部を生食で洗浄します。
下写真の患部(黄色丸)には開創部にうっすらと肉芽組織が形成されています。
ぽぽちゃんは患部をエリザベスカラーで保護してますが、カラーに馴染んでくると色んな形で患部の干渉をしてくるので注意が必要です。
術後2週のぽぽちゃんです。
下写真の黄色丸が肉芽組織ですが、1週目と比較して良好に欠損部をシートしています。
3週目の患部ですが、ぽぽちゃんは患部を齧って出血をしたそうです。
患部が明らかに腫大してます。
抜糸をしました。
下写真は4週目です。
患部の肉芽組織(黄色矢印)は良好ですが、まだ完全に皮膚に分化してません。
術後5週目です。
この1週間の回復スピードは素晴らしく、皮膚が綺麗に生着出来ています。
患部の周辺も発毛が始まっています。
患部の洗浄をします。
テーピングによる皮膚発赤はありますが、治療は終了です。
ペットとは言え、野生動物です。
飼育法を始め疾病、治療についても不明な点の多い動物ですが、比較的皮膚損傷の回復は犬猫より早いように感じます。
ぽぽちゃん、お疲れ様でした!
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