こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肉腫です。

ヨツユビハリネズミは腫瘍の多い動物種のひとつです。

肉腫とは、体表部に出来る間葉系腫瘍で、悪性の腫瘍です。

外科的に完全摘出できるのが理想ですが、発生した場所によっては困難を極める場合もあります。

今回は、膣に生じた肉腫です。

ヨツユビハリネズミのこむぎちゃん(雌 4歳 体重370g)は1か月前から膣に腫瘤が生じて大きくなってきたため、他院を受診されました。

生じている場所が尿道の開口部に近い膣部にあたりますので、担当の獣医師は開腹して卵巣子宮を摘出することでこの膣部の腫瘤は小さくなり、落ち着くかもしれない(?)とのことで避妊手術を受けられたそうです。

術後も膣部の腫瘤は引っ込むことなく、増大を続けるため当院を受診されました。

こむぎちゃんは、腫瘤からの出血が甚だしく、上写真黄色丸がその腫瘤を示します。

膨隆した腫瘤は床材との干渉で簡単に出血しています(下写真黄色矢印)。

おそらくこの腫瘤は腫瘍であると思われました。

早速、細胞診を実施させて頂きました。

結果は、前述の通り多数の間葉系細胞(紡錘形~楕円形)で著しい細胞大小不同、核大小不同を伴った肉腫であることが判明しました。

低倍率像です。

高倍率像です。

こむぎちゃんの出血が多く、長期にわたっている点から、なるべく早く患部を摘出し、出血をおさえたいと考えました。

しかしながら、膣部の腫瘍はかなり深い部分まで広く浸潤しているようです。

腫瘍を全切除することは不可能と思われました。

外部環境との接触、干渉で簡単に患部は裂けてしまうため、出血を抑えるためにも可能な範囲で切除する方が最良でしょう。

結局、尿道口を含めた排尿機能は温存し、他の膣部に浸潤している腫瘍を極力切除する方法(減量法)を選択させて頂きました。

こむぎちゃんにイソフルランによる麻酔導入を実施します。

麻酔導入が完了しました。

こうしてる間にも患部からの出血は続いてます。

ガスマスクによる維持麻酔を行います。

膣部から突出する感じで腫瘍が認められます。

腫瘍自体は非常に脆弱であり、鉗子で牽引して腫瘍の基底部を切除するのも難しそうです。

生体情報モニターの電極を装着します。

陰部表皮をピンセットでつまみ、電気メス(バイポーラ)でゆっくり、止血切除していきます。

滅菌綿棒で患部を抑え込みながら、少しづつ深部(基底部)まで切除を続けます。

腫瘍には栄養血管が豊富に走っており、少し傷つけるだけで多量に出血が起こります。

太い血管についてはバイクランプでシーリングします。

一部太い血管があり、縫合糸で結紮止血します。

バイクランプの80℃の熱で熱変性させて、腫瘍を剥離・切除します。

切除後の患部です。

出血は治まったようです。

吸収性局所止血剤を患部に塗布します。

合成吸収糸で結合組織に死腔が出来ないよう縫合します。

皮膚を4‐0ナイロン糸で縫合します。

陰部からの排尿がスムーズに出来る様に膣部に余裕を持たせて縫合を終了しました。

黄色丸が膣部を示します。

全身麻酔から覚醒し始めたこむぎちゃんです。

出血が多かったので、麻酔からの覚醒に若干時間が要しました。

今回、摘出した肉腫です。

尿道を傷つけると排尿障害に陥りますし、切除できる領域は制限されました。

肉眼で確認できる範囲での切除手術でした。

ピンセットで把持するだけで簡単に崩れてしまう腫瘍です。

術後、抜糸のために来院されたこむぎちゃんです。

出血も治まり、排尿も問題なく出来る様になりました。

問題は、完全に腫瘍が切除出来ていないため、近い将来に腫瘍再発する可能性が高いという事です。

小さな動物の場合、特に排尿排便に関わる部位の腫瘍発生においては、早期発見・早期摘出が第一です。

こむぎちゃんのケースも避妊手術を実施する時に、一緒にこの肉腫を切除出来てたらと今更に思います。

こむぎちゃん、お疲れ様でした!

にほんブログ村ランキングにエントリーしています。

にほんブログ村 その他ペットブログ 動物病院・獣医へ
にほんブログ村

宜しかったら、上記バナーをクリックして頂けるとブログ更新の励みとなります。

もねペットクリニック