チンチラの膀胱結石・尿道結石
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、チンチラの尿路結石(膀胱結石及び尿道結石)の症例です。
チンチラの尿路結石は日常的に遭遇します。
特に尿道結石になった場合、尿道が細いためモルモットやウサギに比べて、排尿障害に陥りやすいという特徴があります。
排尿障害が24~48時間を超えると急性腎不全から尿毒症になります。
その結果、わずか直径数ミリの結石がチンチラの命を奪います。
結石が膀胱であれ、尿道であれ、症状は排尿障害と血尿です。
この症状を見逃さないようご注意下さい。
以前にチンチラの尿道結石、チンチラの膀胱結石の2本の記事を載せていますので、興味のある方は下線部をクリックしてご覧下さい。
チンチラのジロ君(1歳4か月齢、雄、体重600g)は昨日から排尿がないとのことで来院されました。
排尿したくて息むけれども出来ないようです。
触診で膀胱が張っている感じがあります。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
膀胱内の結石は直径が5㎜、尿道内は約2.5㎜(3個)です。
特に尿道内の3個の結石が排尿障害の原因となっています。
尿道カテーテルを挿入して、生理食塩水でフラッシュしましたが尿道内結石を膀胱に戻すことは出来ませんでした。
全身状態は良くなく、血圧が低下しており、採血も出来ない状態です。
そもそも尿が完全に閉塞していますので、解除しない限り治療は先に進めません。
ジロ君は既に腎不全になっている可能性もありますし、麻酔のリスクも十分あることを飼主様に理解して頂きました。
全身麻酔をかけて、速やかに膀胱・尿道の結石を摘出することとしました。
ジロ君に麻酔導入箱に入って頂き、イソフルランを流します。
イソフルランが効いて来たようで、ジロ君の麻酔導入は完了です。
続いてガスマスクで維持麻酔に切り替え、下腹部を剃毛します。
剃毛は完了です。
下写真黄色丸の部分は膀胱を示します。
膀胱はおそらく尿で膨満状態にあり、外観からも盛り上がってみえます。
患部の消毒も終わり、これから執刀に移ります。
下腹部にメスを入れます。
腹筋を切開します。
切開した箇所から、膀胱が突出しました。
膀胱は暗赤色を示し、膀胱内での出血、炎症の進行が疑われます。
膀胱内圧を減じさせるため、尿を吸引します。
下写真の注射器の中は出血で褐色に変性した尿が確認できます。
これから膀胱に切開を加えますので、その前に膀胱の位置を固定するために支持糸を掛けます。
膀胱にメスを入れます。
膀胱壁に切開を加え、膀胱内の結石を探します。
膀胱内に存在する5㎜の結石は、容易に見つかりました。
膀胱内は剥離した粘膜や血餅などが確認されます。
結石が膀胱内で暴れ回り、膀胱粘膜に激しい損傷を与えていたのが予想されます。
膀胱内を洗浄します。
この状態でレントゲン撮影を行いました。
尿道内の3個の結石は回復前と同じ位置に存在しています。
尿道にカテーテルを入れて、生理食塩水で圧をかけてフラッシュし、膀胱内へ結石が戻せるかトライします。
一挙に圧をかけてフラッシュしたところ、膀胱は膨らみました。
膀胱は切開を加えていますので、破裂することはありません。
今の状態をさらにレントゲン撮影します。
下レントゲン写真の青丸は尿道カテーテルの外套部を示し、赤丸は3個の尿道結石です。
既にこの3個は尿道から膀胱内へと移動してるのが判明しました。
あとは膀胱内に逆流してきた結石を摘出するのみです。
結石2個がまとめて摘出出来ました(黄色丸)。
次いで残りの1個が見つかりました(下写真黄色丸)。
切開した膀胱を縫合します。
縫合が完了しました。
尿道カテーテルから生食を注入して、膀胱のリーク(漏れ)チェックを実施します。
縫合部の漏れはありません。
最後に腹筋を縫合します。
皮膚を縫合していきます。
手術は終了です。
手術から覚醒したばかりのジロ君です。
術後2日目のジロ君です。
血尿は治まり、自身で排尿出来るようになりました。
ジロ君は手術後4日目に退院して頂きました。
しかし、退院した翌日にショック状態に陥り、ジロ君は急逝されました。
入院中は経過が良好であったため、非常に残念です。
過去に尿道結石の手術を施したチンチラは予後不良となるケースが比較的多いです。
それは、前述の通り尿道が細いという点もありますし、飼主様が排尿障害になっていることに気づかれていないケースが多い点も挙げられます。
チンチラの飼主様は血尿・排尿障害を認めたら、速やかに受診して頂くようお願い致します。
合掌。
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