ゴールデンハムスターの悪性リンパ腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ハムスターの悪性リンパ腫です。
ハムスターの体表腫瘍は日常的に遭遇する機会が多いです。
背部の腫瘍であれば外科的切除も容易ですが、腋下や内股等血管の走行が密な部位ほどに摘出は難しくなってきます。
犬猫に比べて非常に小さな動物ですから、手術時の出血を最小に抑えることに苦心します。
ゴールデンハムスター・シルバー(長毛種)のゴルダちゃん(雌、1歳)は左側背部に大きな腫瘤があるとのことで来院されました。
下写真黄色丸内がその腫瘤です。
ゴルダちゃんも気にして患部を引掻いて化膿しています。
腫瘍の可能性が高く、細胞診を実施しました。
下写真のように核が濃縮して、核仁が明瞭な大型リンパ球の分裂像も多数認められます。
異形性及び多形性を示す大型リンパ球です。
この所見から、リンパ腫を疑いました。
特に皮膚型リンパ腫は皮膚に潰瘍や痂皮を形成する上皮向性と皮膚の隆起のみで潰瘍などを形成しない非上皮向性に分かれ、上皮向性はT細胞由来が多いとされています。
また明瞭な核仁を有して、分裂頻度は中から高頻度である点から、低分化型(高悪性度)皮膚型リンパ腫と診断しました。
本来、リンパ腫は血液のガンであり、通常化学療法が選択されます。
場合によって、限局性病変や消化管閉塞性病変などは外科的治療を実施します。
今回、病変部が極端に腫大し、ゴルダちゃんが自傷行為に走るため、外科的摘出を飼い主様から希望されました。
まずは全身麻酔を施すため、犬用のガスマスクに入れてイソフルランの麻酔導入を実施します。
次いで自家製のガスマスクに顔を入れて術野の剃毛・消毒に移ります。
腫瘍(下写真黄色丸)がずいぶん大きいのがお分かり頂けると思います。
電気メスで細心の注意を払って、腫瘍のマージンを極力維持しながら切開をしていきます。
若干、うっ血気味の腫瘍が顔を出しました。
腫瘍に栄養を運ぶための太い栄養血管が何本も走行しています。
血管をバイクランプでシーリングしていきます。
従来は細い縫合糸で結紮していましたが、限界を感じていました。
極力、出血は回避したいので現在、このバイクランプを使用して無血手術を目指します。
腫瘍切除後の患部です。
皮膚欠損が広い範囲に及んでいますので、細かく縫合していきます。
ガス麻酔を切って、少し意識が戻ってきたゴルダちゃんです。
全身麻酔のリスクは犬猫以上に小動物にはついて回ります。
犬猫であれば術前に血液検査を実施して、麻酔のリスクに対処できます。
しかし、ハムスタークラスになると血液検査は容易にはできませんので、水面下に潜んでいる基礎疾患を見つけることは難しいです。
長時間の手術に及ぶ場合はさらに慎重になります。
麻酔覚醒20分後のゴルダちゃんです。
しっかり動くことが出来るようになりました。
すすんで食餌も口にできるようです。
患部を自咬しないようにフェルト地のエリザベスカラーを装着します。
今回、他の組織への浸潤は認められず、分離摘出はスムーズに出来ました。
犬の場合、T細胞由来の皮膚型リンパ腫はロムスチンという抗がん剤が適用されます。
しかし、ハムスターの場合は、化学療法剤は認可されてなく副作用も大きいと思われます。
ひとまず、プレドニゾロンを投薬し経過を見ていきたいと思います。
ゴルダちゃん、しばらく患部が回復するまで安静にして下さいね。
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