犬の口唇切除 (その2 パグ・肥満細胞腫)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の口唇部の切除手術の模様です。
前回、トイプードルの口唇切除手術(毛芽腫)をご紹介させて頂きました。
興味のある方はこちらをクリックして下さい。
なお、今回は見る人によってはショッキングに感じる場面もあるかもしれません。
刺激的な写真が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
皮膚腫瘍は顔面にも発生します。
外科的切除を実施する際に、発生部位によっては切除摘出が困難なケースもあります。
また顔面、口唇部などは審美眼的な仕上がりが要求される場合もあります。
パグの梅ちゃん(避妊済み、4歳4か月齢、体重6.5kg)は左上口唇部に腫瘤が認められて来院されました。
患部を細胞診したところ、肥満細胞腫であることが判明しました。
肥満細胞腫は犬では最も多く発生する悪性の皮膚腫瘍とされます。
肥満細胞腫の多くは、真皮と皮下組織で発生します。
治療の方針としては、第一選択は外科的摘出です。
今回の梅ちゃんの細胞診の結果は、低グレードタイプでc-kit遺伝子検査ではexon8に変異が認められました。
肥満細胞腫の全身療法が適用となった時にc-kit遺伝子検査結果から、変異が認められる場合は従来の抗がん剤ではなく、分子標的薬(イマチニブやトセラニブ)が効果が期待できるため、内科治療の第一選択となります。
梅ちゃんの場合、少しでも腫瘍の大きさを減量してから手術に臨むべきと考え、手術までの約3週間をプレドニゾロンを内服して頂きました。
3週間後には腫瘍の大きさは、ある程度縮小して手術で摘出できる大きさとなりました。
梅ちゃんの左口唇部の真皮から皮下組織にかけて腫瘍が発生しています。
今回の手術のアウトラインをイラストで説明します。
下は梅ちゃんの顔のイラストですが、左の口唇部の赤い患部が肥満細胞腫です。
口唇部は2か所切除(①、②)を実施します。
下イラストは切除後の口唇部断端の縫合面の組み合わせを示してます。
緑断端部同志を縫合し(①縫合)、口唇部の下端を切除し(②切除)、その断端を回転して青の断端同志を縫合します(②縫合)。
腫瘍は鼻鏡部に近い所にありますが、審美眼的にも可能な限り鼻鏡部を温存したいと考えました。
縫い代(サージカルマージン)を最低限確保する方向で、腫瘍が関与する領域をしっかり摘出します。
口唇部の粘膜面、皮下組織、皮膚と3層にわたり縫合を施します。
3層縫合が①縫合済み、②縫合という流れで行います。
最後に②縫合済みで手術は終了します。
全身麻酔下の梅ちゃんです。
下写真の黄色丸は腫瘍を示します。
肥満細胞腫は直接患部を接触し続けると反応して即時、腫大します。
従って、患部は触らないよう周囲組織からの切除を心がけます。
上顎口唇部を粘膜面から硬性メスを入れて行きます。
最終的にはモノポーラ(電気メス)で切除するのですが、切開ラインにそって硬性メスを入れます。
モノポーラで口腔粘膜から切除を始めます。
ここからのシーンは大胆に口唇部をカットしていきますので、苦手な方は閲覧を控えて下さい。
次に梅ちゃんの鼻鏡部直下を硬性メスで切開します。
口唇部の皮膚側の切開ラインを硬性メスで印をつけます。
モノポーラで口唇部を切除します。
下写真黄色丸は患部の腫瘍です。
上顎歯肉ぎりぎりを切除します。
切除マージンを最大限確保したいのですが、歯肉側は上顎口唇の付根まで切除します。
鼻鏡部付近の皮膚を切除します。
腫瘍切除が完了です。
腫瘍切除後の患部です。
口腔内の歯や歯肉・舌が垣間見えます。
次に顔面イラストの②切除にあたる部位(下写真黄色ライン)を外科鋏で切除します。
上記の切除面を回転して、下写真のように鼻鏡部に縫合します。
外科鋏で切除してます。
これから縫合を実施します。
まずは粘膜面からの縫合です。
後半に切除した口唇部を回転して粘膜面を縫合します。
次に皮下組織を縫合します。
顔面イラストの②縫合に当たる口唇部と鼻鏡部の皮下組織縫合が終了です。
最後に皮膚を縫合します。
これで手術は終了となります。
全身麻酔から覚醒し始めた梅ちゃんです。
無事手術は終わりました。
手術の翌日の梅ちゃんです。
術後4週の梅ちゃんです。
患部の抜糸を行います。
傷口は綺麗に癒合しています。
顔面が左方に牽引されて、多少の引きつった感じはありますが、時間と共にある程度は左口唇部は伸展すると思われます。
鼻鏡部の粘膜面も問題なく癒合しています。
今回の手術で切除した口唇部(粘膜面)です。
黄色丸が肥満細胞腫です。
下写真は口唇部・皮膚面です。
下写真の腫瘍切除面は、歯肉・上顎歯槽骨の際に及んでいます。
病理検査の結果、患部のマージン評価が気になるところです。
下写真は低倍率の病理写真です。
中拡大像です。
肥満細胞のシート状増殖巣が形成されています。
腫瘍細胞は小型類円形核と好塩基性顆粒状の細胞質を有する小型円形細胞で、少数の好酸球浸潤を伴っています。
異型性は軽度で明らかな腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められないとのことです。
しかしながら、腫瘍細胞は歯肉側の切除断端に及んでいるとのことで、局所再発の注意が必要です。
梅ちゃんは念のため、抗がん剤の内科的治療(ビンブラスチンとプレドニゾロン)を今後展開していきます。
肥満細胞腫は悪性腫瘍であり、転移発生する可能性もありますので慎重にモニターリングが必要です。
梅ちゃん、お疲れ様でした!
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