こんにちは 院長の伊藤です。

以前、会陰ヘルニアについてコメントしました。

それはヘルニアの整復にシリコンプレートを使用した例でしたが、今回は生体内組織(筋肉)を利用したケースをご紹介します。

会陰ヘルニアの手術の術式は、古くは1940年台にさかのぼり、1980年台には米国獣医外科専門医協会(ACVS)が内閉鎖筋転移術を標準的術式と定めています。

その後、数多くの術式が考案され現在に至っていますが、どの術式も利点と欠点があり決定版となる術式はありません。

どちらかと言えば、術者の好みが大きいように思います。

マルチーズのチーズ君(未去勢、8歳)は排便時のいきみが気になり、かつ排便がスムーズにできないことで来院されました。

よくよく拝見しますと右側臀部が腫れあがっています。

直腸にバリウムを造影しますと下写真の黄色矢印にあるように右側にヘルニアの塊があり、直腸が圧迫されて蛇行しているのがお分かりになると思います。

チーズ君は、未去勢でありシニア世代であることから、会陰ヘルニアと診断し手術を実施することになりました。

会陰ヘルニアに加え去勢手術も行います。

肛門の右側傍ら全体が腫れているのがお分かり頂けるかと思います。

メスを入れたところ、いきなり大きな脂肪の塊が飛び出してきました。

いわゆるヘルニア内容物がこの脂肪の中に存在しています。

注意深くメスを進めますとヘルニア嚢の中は炎症が起こっており、透明な浸出液が溜まっており、膀胱の一部が突出していました。

ヘルニア内容を整理して、突出した膀胱を元の骨盤腔内へ戻しました。

指がしっかりヘルニア孔の中へ入ります。

ここでヘルニア孔の周辺の筋肉群をうまく縫合してこの穴を閉鎖してきます。

骨盤を構成する骨の中に坐骨があります。

この坐骨の内側に内閉鎖筋という筋肉が存在します。

この内閉鎖筋を坐骨から剥離して上に反転して、このヘルニア孔を閉鎖するという術式を今回実施しました。

下写真は、骨膜剥離する器具で坐骨から内閉鎖筋を剥がしているところです。

外肛門括約筋と肛門挙筋、仙結節靭帯を丁寧に縫合していきます。

最後に剥離した内閉鎖筋を外肛門括約筋・仙結節靭帯と縫合します。

術後のレントゲン撮影の写真が下です。

蛇行していた直腸がまっすぐになっています。

術後、2日間は排尿排便が疼痛でうまくできなかったチーズ君ですが、3日目にはしっかりできるようになりました。

会陰ヘルニアは再発率の高い疾病ですが、いかにヘルニア孔を確実に閉鎖するかにかかっています。

ヘルニア孔の補てん剤として、シリコンやポリエチレンメッシュ等の人工材料だと二次的な細菌感染が起こしやすいとも言われます。

私の経験では、人工材料での二次感染はありませんが、ヘルニア孔を閉鎖する筋肉のパワーが術後経過とともに弱くなっていくのを感じます。

生体の筋肉を利用した方がスムーズにヘルニア孔の閉鎖できるかもしれません。

チーズ君は無事、退院し排便できています。

会陰エルニアで排便を苦しんでるイヌ達を診るたびに、若い時に去勢をしていただければ、回避できたのにと残念に思います。

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