こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのは会陰ヘルニアの1症例です。

会陰ヘルニアは中高年の雄犬に良く見られる疾病です。

以前にもこの会陰ヘルニアについて、手術法の紹介もかねてコメントさせて頂きました。

その詳細はシリコンプレート使用例内閉鎖筋を用いた整復法例のそれぞれを興味のある方はクリックして下さい。

会陰ヘルニアは、直腸を固定(支持)する筋肉群が萎縮してヘルニア孔が発生して、骨盤腔内および腹腔内の器官がこのヘルニア孔を通って会陰部の皮下に脱出することを言います。

骨盤内の直腸が脱出した場合、皮下で直腸が折れ曲がっていることが多く、結果として直腸内の便がスムーズに排便できなくなります。

直腸内に停留した便は水分が吸収され、硬化し次第に膨隆していきます。

膨隆した便塊は肛門の脇の皮膚を腫らします。

犬は排便障害・排便困難を呈して、来院されます。

来院時には何度となく手指による摘便を繰り返されており、直腸が手指による受傷を伴っている場合もあります。

ポメラニアンのライ君は食欲不振・嘔吐で来院されました。

よくよく臀部を診ますと肛門の左側の皮膚が膨隆しています。

会陰ヘルニアを発症していることが判明しました。

飼い主様の諸事情もあり、外科的整復手術の了解を得たのが5か月後です。

この時点で飼主様はライ君の高度の排便障害を訴えていました。

下写真の黄色丸が膨隆している会陰ヘルニアの箇所です。

レントゲン写真を撮影しました。

黄色丸は硬化した便塊です。

会陰ヘルニアは内科的治療では治すことが出来ません。

ヘルニア孔の周辺の筋肉を縫合して骨盤隔膜を外科的に再構築しない限り完治できません。

会陰ヘルニアの手術法は、昔から各種手術法が紹介されていますが決定打の手術法はありません。

獣医師各自の経験から手術法を選択しているのが現状です。

私自身、採用する手術法は患者の容態に合わせて数種類、選択肢を用意しています。

今回は、長らく会陰ヘルニア状態が続いていた点から、再手術を確実に防ぐためにも結腸を腹壁に固定する方法を選択しました。

ヘルニア孔から逸脱している腸を頭側に引っ張って、再脱出しないようにブロックする方法です。

まずは結腸固定のため、仰臥位から腹部正中切開します。

腹膜との癒着を促すために、結腸漿膜面をメスの背側で擦過します。

左側腹壁にメスを入れます。

メスを入れた腹膜と結腸を縫合して固定します。

縫合糸はPDSⅡを使用しました。

結腸固定(黄色丸)が完成しました。

この処置だけでは不十分で、次に伏臥姿勢をとって肛門の横からメスを入れて、骨盤隔膜筋の再構築をします。

今回は外肛門括約筋と仙結節靭帯を縫合する方法を採ります。

肛門左側のヘルニア部位にメスを入れます。

下写真黄色丸はヘルニア孔です。

大きな穴が開いているのがお分かり頂けると思います。

外肛門括約筋とは、まさに肛門の外周を取り巻く筋肉です。

仙結節靭帯は骨盤の坐骨から尾椎へと伸びる強固な靭帯です。

会陰ヘルニアでもこの靭帯は安定しており、周辺の筋肉群のように委縮することはないため、外肛門括約筋と仙結節靭帯を縫合することで確実な骨盤隔膜を再構築できます。

4か所を結紮するため、ナイロン糸を外肛門括約筋と仙結節靭帯にかけます。

仙結節靭帯を左の人差し指先で確認して縫合する場面が、今回は残念ながら写真が摂れていませんので載せることが出来ませんでした。

仙結節靭帯にかける縫合針は、丸針の先端をヤスリがけして先端を鈍化して使用すると靭帯の裏側に走行する血管や神経を損傷を回避できます。

仙結節靭帯は裏側に坐骨神経が走っており、針で引掻けないよう注意が必要です。

1針づつ確実に結紮していきます。

肛門が左側に引っ張られているような外観ですが、数日後には治まります。

手術は無事終了して、麻酔覚醒したライ君です。

術後のレントゲン像です。

脱出していた直腸も骨盤腔内に納まっています。

入院3日後のライ君です。

創部の腫脹も治まってきました。

3日目にしてスムーズな排便を認めました。

術後7日目、退院当日のライ君のお尻です。

ヘルニアで腫れていた部位は綺麗に平坦になっています。

排便時のいきみもなくなりました。

腹部の創傷部も良好です。

長らく排便時のいきみ、疼痛、排便障害に悩まされていたライ君ですがこれで解放されることと思います。

ライ君、お疲れ様でした!

 

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