アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その4)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日も引き続き、アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌をご紹介させて頂きます。
ウサギは自然界では、肉食獣の食糧源でもあり、生態系を維持するためにも被捕食者としての絶対数が必要となります。
結果、繁殖がウサギにとっては、重要な能力であり、周年発情というスタイルを取ります。
周年発情とは、一旦アダルトになると死ぬまで発情し続け、繁殖を繰り返すことを意味します(発情期自体がありません)。
自然界では、意義のあることでもペットとして飼育される場合、繁殖は基本的には必要ありません。
そのため、1歳を過ぎれば卵巣・子宮に負担をかける生活を送ることになり、4歳以降になると子宮腺癌の発症率が80%以上となります。
実際、臨床の現場でどのように子宮腺癌に対応しているかを皆様にご覧いただけたらと思います。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮腺癌は過去にも何例もご紹介してきました。
今回は事前の検査(エコー・レントゲン)でも見つけられなかった症例です。
ネザーランド・ドワーフのてんちゃん(雌、5歳、1.2kg)は床に出血跡があり、どこか異常があるのではと受診されました。
4,5歳以降の血尿は子宮疾患が絡んでいるといつも申し上げています。
今回もその疑いで検査を進めさせていただきました。
まず尿検査では潜血反応は陰性、顕微鏡所見でも尿路結石の結晶や子宮腺癌の細胞は陰性となりました。
エコーでは膀胱内の結石はなく、子宮自体の腫大も認められません。
レントゲン所見は以下の通りです。
ただ子宮疾患でも初期のステージであれば、子宮腫大もなく、かつ不定期に出血が尿中に認められることはあります。
止血剤と抗生剤の投薬でしばし、経過観察としました。
その1か月後、てんちゃんの経過は良好ですが飼い主様の要望もあり、避妊手術を実施することとなりました。
いつものごとく、点滴の留置針を入れます。
腹筋を切開して開腹します。
下写真黄色丸が子宮です。
見た感じはきれいな正常な子宮に見えます。
バイクランプで卵巣動脈をシーリングしてます。
左右の子宮角もバランスが取れています。
子宮頚部を結紮します。
腹腔内に出血がないか、他の臓器に異常がないかを最後に確認します。
特に異常な所見は認められませんでした。
ステープラーで皮膚縫合します。
これにて避妊手術は終了です。
覚醒直前のてんちゃんです。
次に摘出した子宮を検査します。
よく注意して触診していくと、わずかですが小さな腫瘤が認められました(下黄色丸)。
側面からのアングルです。
この気になる腫瘤にメスを入れて(黄色矢印)、スタンプ染色しました。
下写真は低倍率の顕微鏡写真です。
次は高倍率写真です。
青紫に染まっているのが子宮腺癌の細胞です。
当初、床に出血跡が認められる程度の所見で、その後は出血がなかったというのは、まだ子宮腺癌が初期のステージであったということです。
これから、どんどん腺癌が増殖していくステージに移行したことでしょう。
この段階で早めに子宮を全摘出できて良かったと思います。
腫瘍の存在を摘出してから気付くというケースもあることを忘れないで下さい。
翌日、てんちゃんは無事退院されました。
4.5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして、可能な限り1歳までに雌ウサギは避妊手術を受けて下さい。
それが子宮疾患、特に子宮腺癌に罹患しないで済む唯一の選択肢です。
てんちゃん、お疲れ様でした!
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