アーカイブシリーズ ウサギの子宮腺癌(その6)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日もウサギの子宮腺癌について、過去の記事から掲載させて頂きます。
ウサギの子宮腺癌というと血尿が真っ先に挙げられますが、小手先で止血剤や抗生剤で治まるということはありません。
他院でこれらの投薬を長期間された患者を診たことがありますが、残念ながら、その間に子宮腺癌が肺に転移し、肺腺癌を併発していました。
非常に残念な結末ですが、肺腺癌となると打つ手はありません。
犬猫なら放射線療法の選択肢もあるのでしょうが、私はウサギでの経験は残念ながらありません。
その点を鑑みながら、アーカイブシリーズをご覧いただければ幸いです。
こんにちは 院長の伊藤です。
ウサギの子宮疾患で死亡率が高いのは、子宮腺癌です。
子宮に腫瘍が出来ますと腺癌に侵された子宮内膜から出血が始まります。
多くのウサギは血尿から、飼主様が異常に気づくことが多いです。
ここで動物病院を受診して、幸いにも子宮腺癌と診断されて外科的に卵巣子宮摘出手術を成功されれば理想です。
現実には、他院で犬猫と同様に膀胱炎の診断をされ、抗生剤と止血剤の内服を長期にわたり継続して、腹腔が子宮腺癌で膨満した状態で、セカンドオピニオンとして当院を来院されるケースが多いです。
こうなると、待ったなしの外科手術になります。
少しでも、飼主様にウサギの子宮腺癌についての見識をお持ちいただけるよう子宮腺癌の症例をご紹介させて頂いてます。
今回、ご紹介しますのはモシャちゃん(8歳6か月)です。
モシャちゃんは福島で震災に遭い、飼い主様のご実家である名古屋に戻られたという経験を持つウサギです。
去年の12月から血尿が続くとのことで他院を受診したそうですが、子宮疾患の疑いはないと否定されたそうです。
セカンドオピニオンで当院を受診された時には、出血の量も多くなっていました。
下写真はモシャちゃんをお預かりしてすぐに出た血尿です。
お腹の膨満感はありませんが、歯茎等の可視粘膜は貧血色を呈しています。
直ぐにエコーをしました。
下のエコー像の黄色丸で囲んだ部位が腫脹している子宮です。
かなり、膨大しており周囲の腸を圧迫しています。
この段階で子宮腺癌の確定診断は出来ましたので、そのまま手術で摘出することにしました。
貧血が酷い場合は、ある程度内科的治療を施して、体力が手術に耐えられるまで回復を待つこともあります。
モシャちゃんの場合は、これ以上内科的治療を継続することでの回復は望めないと判断しての手術です。
いつものことながら、静脈確保のための留置針処置です。
イソフルランで麻酔導入します。
モシャちゃんは長毛種で下腹部を剃毛するのが大変です。
正中切開でメスを入れます。
腹膜を切開したところで、すでに腫大した子宮が外からでも認識できます。
腺癌で腫大した子宮です。
健常な子宮の6~7倍くらい腫大しています。
卵巣動静脈も子宮間膜の血管も怒張しており、これもいつもの通りバイクランプのシーリングでほとんど無出血で両側卵巣を離断します。
最後に子宮頚部を縫合糸で結紮して子宮を摘出します。
あとは腹膜・腹筋・皮膚と縫合して終了です。
モシャちゃんは手術にしっかり耐えてくれました。
麻酔の覚醒も速やかです。
無事、手術は終了しました。
今回摘出した卵巣と子宮です。
右側子宮角です。
左側子宮角です。
子宮壁を切開してました。
腺癌が子宮内膜へ浸潤しており、子宮壁の一部は炎症から変性壊死してます。
この病変部をスタンプ染色しました。
腺癌の腫瘍細胞が認められます。
術後のモシャちゃんの経過は良好で3日後には退院して頂きました。
下写真は2週間後のモシャちゃんです。
抜糸のため来院されました。
首に付けたエリザベスカラーが邪魔みたいですが、傷口の保護のためには止むを得ません。
剃毛部した部位は既に下毛が生えてきています。
皮膚も綺麗に癒合してます。
抜糸後の皮膚です。
モシャちゃんは術後食欲が見違えるほどに旺盛になり、活動的になったそうです。
また血尿も術後はありません。
毎回、このウサギの子宮腺癌の紹介の文末に記載してますが、5歳以降の血尿は子宮疾患を疑って下さい。
そして速やかに、ウサギを診て頂ける動物病院を受診して下さい。
モシャちゃんの飼主様は5歳以降の避妊手術は危険でできないと思い込んでみえました。
モシャちゃんは8歳を過ぎた高齢でしたが、手術は可能でした。
救える命は、頑張って救ってあげたいと思います。
そして、できるなら1歳位には雌ウサギには避妊手術を受けさせてあげて下さい。
モシャちゃん、お疲れ様でした!
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