こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの平滑筋肉腫です。

ハリネズミは色々な腫瘍に罹患します。

平滑筋は消化器などを構成する筋肉組織ですが、この平滑筋が肉腫という悪性腫瘍になりますと難しいことになります。

ヨツユビハリネズミの芝ちゃん(8か月齢、雌、体重500g)は血尿が頻発するとのことで来院されました。

雌のハリネズミの血尿は以前から子宮疾患を疑うように申しておりましたが、今回は一般的な子宮内膜炎か子宮腺癌あたりではないかと思われました。

触診をしてもなかなか下腹部を触らせてくれませんので、レントゲン撮影を実施しました。

膀胱内の尿石や子宮が特に腫大した所見は見当たりません。

しかしながら、出血量は多くて、このままでは高度の貧血状態に陥る可能性大です。

上写真にあるように排尿時に出血が認められます。

飼い主様の了解を頂き、試験的開腹をさせて頂く事にしました。

いつものごとく、芝ちゃんに麻酔導入箱に入ってもらいます。

少しづつ麻酔が効いてきます。

麻酔導入箱から出て頂き、手製のマスクに顔を入れてイソフルランで維持麻酔を行います。

心電図や血中酸素分圧などをモニタリングするための電極を装着します。

これから下腹部にメスを入れます。

下写真は子宮です。

赤紫のうっ血色を呈している腫瘤(下写真黄色丸)が、ちょうど子宮頚部に認められます。

この赤紫色の部位はおそらく腫瘍と考えられますので、接触による患部出血を回避するために慎重に取り扱います。

次にいつものごとくバイクランプにより、卵巣動静脈をシーリング致します。

犬や猫の卵巣なら鉗子で把持することは容易ですが、ことハリネズミになりますと小さいことと組織脆弱なことで、鉗子を使わず指先で把持しての手術となります。

卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。

度重なる出血から子宮自体は貧血色を呈しています。

子宮頚部の腫瘤(黄色丸)の全容です。

子宮頚部を結紮します。

子宮頚部を離断します。

ハリネズミの子宮頚部は短く、離断する位置はなるべく膀胱に近い遠位に持っていきたいのですが、限界があります。

子宮頚部を離断しました。

卵巣・子宮切除後の腹腔内を確認します。

この時点で、特に腹腔内臓器に腫瘍病巣は見当たりませんでした。

腹壁を縫合します。

皮膚縫合して手術は終了です。

ガス麻酔を切って、芝ちゃんの覚醒を待ちます。

麻酔から覚醒直後の芝ちゃんです。

覚醒時は暴れることが多いですが、それは覚醒が良好な状態であることを示しています。

手術は無事終了です。

術後一時間の芝ちゃんです。

四肢での起立は出来ていますが、筋肉は硬直し疼痛を感じているようです。

翌日の芝ちゃんです。

排尿時の出血はなくなり、排尿(黄色丸)もスムーズに行うことが出来ます。

摘出した子宮(下写真)の腫瘤を細胞診しました。

黄色丸で囲んだ部位は病変部を縦断して切開したものです。

細胞診の顕微鏡像です。

核の異型性を示す紡錘形細胞が多数認められました。

発生部位が子宮頚部筋層であることから、平滑筋肉腫の判定が出ました。

術後2日目に芝ちゃんは元気に退院して頂きました。

しかし、残念ながら術後11日目に急逝されました。

合掌。

子宮腺癌ではなく、平滑筋肉腫ということで、恐らく子宮筋層から発生した腫瘍が子宮の漿膜面(外層)に出て空回腸などの消化器や腹膜などへ転移していたのかもしれません。

小さな動物のため、開腹時に腹腔内をつぶさに確認することが難しいです。

過去のハリネズミの子宮疾患は子宮内膜炎が一番多く、術後の経過は良好です。

しかし、今回の様に平滑筋肉腫が絡んだりすると既に他の臓器に転移している可能性があります。

諸検査を実施するにしても、すぐに針を立てて丸くなる性格上、鎮静・麻酔が必要になったりします。

なるべくストレスのない検査をしたいのですが、難しいのがハリネズミです。

病巣部の早期発見・早期治療を心がけたいと思います。

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