アーカイブシリーズ ヨツユビハリネズミの卵巣腫瘍(起源不明の腫瘍)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日も引き続き、ヨツユビハリネズミの産科疾患で卵巣腫瘍の症例をご紹介します。
腫瘍はその発生起源が上皮性なのか間葉系なのか、いろいろなケースがありますが病理医の判断で不明となる事例もあります。
今回の事例は発生起源が不明の卵巣腫瘍です。
2018年11月2日に当院HPに掲載した記事です。
宜しかったら、ご覧下さい。
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのはハリネズミの卵巣腫瘍の症例です。
ハリネズミの雌においては、2歳以降に血尿で来院される場合、多くが子宮卵巣の腫瘍が関与していることが多いです。
実際、早期に血尿を見つけて外科的に卵巣子宮を摘出できれば、予後は良好です。
今回は、摘出した卵巣が腫瘍になっていたケースです。
ヨツユビハリネズミのしげぞうちゃん(雌、2歳6か月、体重600g)は血尿が出たとのことで来院されました。
血尿に関しては、まだ大量出血というステージではありません。
産科系疾患の予防医学的な面も含めて、卵巣子宮全摘出を飼主様が希望されたこともあり、手術を実施することとなりました。
いつも通りのイソフルランによる麻酔導入を実施します。
しげぞうちゃんには麻酔導入箱に入ってもらいます。
イソフルランが効いてきて足がふらつき始めます。
麻酔導入が完了したところで、下腹部を剃毛・消毒してモニターのセンサーを装着します。
皮膚にメスを入れます。
皮膚切開時に多少、下腹部を圧迫したためか陰部から出血が認められました(下写真黄色丸)。
下写真の外に出ている臓器は膀胱であり、膀胱内の出血は無いのがお分かり頂けると思います。
この点からも、膀胱炎などが原因の血尿と言うわけではなく、卵巣子宮からの出血が絡んだものであることが推察されます。
下写真の青矢印が子宮体であり、子宮角は若干腫大しており、一部内出血があるようです。
加えて、黄色丸は左の卵巣ですが大きく結節大に腫脹しています。
黄色矢印は嚢胞状を呈した卵巣を示します。
膀胱内には大量に蓄尿があり、子宮頚部を縫合糸で結紮する上で障害となりますので、注射針で膀胱穿刺して尿を吸引します。
卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。
シーリングした血管をメスで離断します。
反対側の卵巣もシーリングします。
子宮頚部を縫合糸で結紮をします。
子宮頚部を結紮すると血行が遮断されますので、卵巣や子宮角部の高度に血管が怒張・浸潤している部位が明瞭に分かります。
メスで子宮頚部を離断します。
子宮頚部を離断すると一挙に子宮内から血液が出て来ました。
メスで離断した子宮頚部を縫合します。
腹腔内に腫瘍が転移していないか、確認します。
肉眼的には他の臓器への腫瘍は認められませんでした。
腹筋を縫合します。
皮膚を縫合して手術は終了です。
陰部からの出血が認められます。
麻酔から覚醒したばかりのしげぞうちゃんです。
麻酔覚醒は順調で問題ありませんでした。
手術後1時間経過したところです。
しげぞうちゃんは普通に歩行できています。
摘出した卵巣子宮です。
黄色矢印は腫大していた左卵巣です。
裏側から見た卵巣です。
下写真は子宮内膜を示す病理写真です。
子宮内膜はびまん性に肥厚しており、子宮内膜ポリープを形成しています。
高倍像です。
ポリープを構成する子宮腺上皮細胞と紡錘形細胞が認められます。
子宮は、子宮内膜過形成及と子宮内膜ポリープとの病理診断でした。
問題となる左の卵巣の病理写真です(中等度倍率)。
多形性を示す類円形・多角形細胞(卵巣間質腺細胞)が認められ、核は大小不同・偏在を示し、明瞭な核小体を有しています。
病理医によるとこの卵巣由来と思われる腫瘍は、特徴が乏しく起源の特定は難しいとのことでした。
しげぞうちゃんの術後の経過は良好で、患部の抜糸も無事終了しました。
その後は陰部からの出血もなく、元気に過ごされています。
しげぞうちゃん、お疲れ様でした!
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