猫の会陰部尿道瘻形成術
こんにちは 院長の伊藤です!
猫は排尿障害を起こすことが多い動物です。
以前にもご紹介した尿石症などはその代表です。
興味のある方はこちらを参照下さい。
完全に排尿できなくなると猫は48時間以内に尿毒症に陥ります。
その結果、最悪死亡することも想定されます。
排尿障害をクリアするため、尿道を会陰部に開口させる外科手術があります。
会陰部尿道瘻形成術と呼ばれる手術法です。
この手術は、緊急事態に選択されることが多いです。
この手術を本日はご紹介させて頂きます。
雑種猫のセルキ君(2歳、去勢済)は排尿できなくて、ぐったりしているとのことで来院されました。
下腹部を触診すると膀胱はパンパンに腫れており、セルキ君は眼も虚ろで軽度の虚脱状態になっていました。
下腹部を圧迫することで強制排尿を施行しましたが、不可能でした。
まず皮膚から膀胱を穿刺し、注射器で尿を回収することにしました。
尿を検査したところ、ストルバイト結晶が多数確認されました(下写真)。
排尿障害の原因は、このストルバイト結晶が尿道に詰まったことによるものでした。
尿道内にまず、カテーテル挿入を試みましたが、尿道口3~4cmのところで先にカテーテルを進めることが出来なくなりました。
生理食塩水を注射器で注入するも、完全に尿道は閉塞状態となっています。
次に超音波を発振させて尿道に閉塞している結晶を破砕できないか試みました(下写真)が、ダメでした。
血液検査の結果、BUN60.2mg/dl、CRE2.6mg/dlと言う結果で高窒素血症を呈しています。
腎不全で要注意の状態です。
このままでは、尿毒症に陥るのも時間の問題です。
そこでセルキ君の会陰部に直接尿道を開口させて、自力で排尿を可能にする会陰部尿道瘻形成術を実施することにしました。
この手術は陰茎の根元部分の尿道を切開して、比較的直径の大きい骨盤部尿道を外界に開口させるように、切開部尿道粘膜と皮膚を直接縫合して外尿道口を形成します。
会陰部を露出させる体位を取ります。
猫の陰茎は下写真の黄色丸が示す包皮の中に存在しています。
包皮の真上に少し皮膚がたるんでいる箇所がありますが、これはセルキ君が過去に去勢を受けており、精巣が摘出された陰嚢の名残りです。
そこで下写真の黄色丸のラインの箇所にメスを入れて、陰茎を牽引するために包皮ごと切開します。
船形に切開した皮膚を持ち上げると陰茎ごと出て来ます。
陰茎の周囲には各種筋肉が走行しています。
これらの筋群を確実に切断していきます。
下写真にある陰茎腹側の坐骨海綿体筋を切断します。
次いで陰茎背側の陰茎後引筋を鋏で切除します。
この処置で陰茎を下方に牽引して引き下げることが可能となります。
牽引した陰茎の正中線部に鋏で切開を入れます。
陰茎の先端部から尿道カテーテルを入れることが出来ないため、尿道を傷つけないよう注意しながらの切開です。
尿道は陰茎の先端から骨盤部尿道という骨盤の手前の箇所まで陰茎内を通じています。
尿道の太さは骨盤部尿道が最も太いため、その部位まで切開を加え、その尿道粘膜と会陰部皮膚を縫合します。
そうすることで気持ちよく排尿することが可能となります。
イメージとしては、下のイラストの通りです。
実際は下写真の通りです。
骨盤部尿道に尿道カテーテルを挿入します。
しっかりカテーテルは入り、膀胱内に蓄尿した尿を吸引します。
次に尿道粘膜と会陰部皮膚を縫合します。
一番の決め所で慎重に縫合していきます。
最後に正中切開した陰茎の先端部の名残りをカットします。
これで終了となります。
尿道開口部の癒着を防ぐため、数日は尿道カテーテルを留置します。
陰茎は血液が集まる部位でもあり、思いのほか出血があります。
麻酔覚醒後のセルキ君です。
術後のセルキ君は経過も良好で、排尿も気持ちよくできるようになりました。
下写真は術後4日目のセルキ君です。
顔つきもしっかりしています。
次の写真は術後7日目のセルキ君です。
退院直前のショットです。
すでに高窒素血症は改善し、排尿もスムーズです。
下写真は術後2週間後のセルキ君のお尻です。
まだ患部が尿で汚れてジュクジュクした感じです。
次の写真は術後5週間目のセルキ君のお尻です。
非常に患部は綺麗に治まりました。
排尿も何ら支障なく出来ています。
猫の尿道結石症は、砂粒状の結石(ストラバイトやシュウ酸カルシウム)が陰茎先端部で詰まって尿路を閉塞します。
尿道カテーテルで一旦、尿路結石を排出できても再度閉塞することもあります。
加えて尿道の炎症反応や尿道カテーテルによる刺激で陰茎部尿道が狭窄を起こした場合、排尿を円滑にするためには本手術が必要となります。
陰茎を失ってしまうのは可哀そうですが、命をつなぐためには致し方ありません。
セルキ君、お疲れ様でした!
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