こんにちは 院長の伊藤です。

先日、猫の下部尿路疾患(終章 排尿復旧)を載せました。

この手術法について、詳しく知りたいとの読者の方からお声があり、以前の掲載記事を再度載せます。

尿石症を背景に排尿障害で苦しんでいる猫は多いです。

これまでにも猫の尿石症とその治療についてはコメントさせて頂きました。

そして、この尿石症で排尿不可能となり、尿毒症に至る症例については外科的手術で尿路変更術を施します。

以前、その尿路変更術の一つである会陰尿道瘻形成術について報告をさせて頂きました。

その詳細はこちらをクリックして下さい。

会陰尿道瘻形成術が功を奏しないとき、骨盤腔内の尿道損傷、あるいは猫泌尿器症候群に有用とされる恥骨前尿道造瘻術を本日ご紹介させて頂きます。

この術式の特徴は、尿道を骨盤腔内を通過させることなく腹壁に開口させるものです。

イメージとしては、乳房に尿道を移動させて、乳房から排尿させる手術です。

猫のぴーちゃん(手術当時2歳、雄)はストルバイト尿石症により、以前から排尿障害を繰り返しており、当院にて会陰尿道瘻形成術を受けました。

その後の経過は9か月ほど良好であったのですが、再度排尿障害を起こし始めました。

入院して頂き、尿道カテーテルを挿入して排尿障害の改善を試みましたが効果が認められません。

救命処置として恥骨前尿道造瘻術を行うこととしました。

開腹して、骨盤腔内にある尿道を牽引して一番下の第4乳房を切除して、牽引してきた尿道を乳房のあった位置から皮膚に縫合します(下イラスト参照)。

手術の前半は、ビデオで撮影していたため、荒い静止画像で申し訳ありません。

下写真は開腹して体外に出した膀胱です。

排尿障害により、膀胱炎も併発し膀胱壁は肥厚してゴツゴツしています。

下写真の黄色矢印で示したのが、膀胱を牽引して骨盤腔に近い位置にある尿道です。

下写真黄色矢印が、さらに骨盤腔から牽引してきた尿道です。

尿道で一番太い箇所です。

この尿道を鋏でカットします。

カットした尿道の断面です(下写真黄色丸)。

次に乳房をカットします。

下写真の円形になっているところが乳房のあった部位です。

乳房の直下の腹筋に穴を開けて尿道が通るようにします。

尿道を体外に誘導しました(下写真黄色矢印)。

次に、体外に牽引した尿道(下イラストの茶色い円柱状のもの)を皮下組織と皮膚に5-0の非吸収性モノフィラメント縫合糸で縫合していきます。

下イラストの要領で実施します。

実際の写真は以下の通りです。

以下の写真はデジカメのもので画像は多少見やすくなっていると思います。

体外に誘導した尿道を6か所で、皮膚・皮下組織・尿道と縫合糸を通します。

最後に、尿道カテーテルをこの新たな尿道口へ留置し、排尿を確保させます。

尿道カテーテルを抜去した後、確実に自力で排尿できるまで入院して頂き、1週間後の退院となりました。

術後30日後のぴーちゃんです。

下写真の黄色丸が体外に出した尿道を皮膚に縫合した部位です。

術後30日でもまだピンク色を呈し、術部の血行が良好なのが伺えます。

排尿も自力で可能であり、患部周辺の若干の尿カブレは認められるものの、患部を衛生的に清拭することでクリアできています。

術後3か月のぴーちゃんです。

トイレで排尿時の音が、離れていても聞こえる位に快適に排尿が出来るようになりました。

術部の拡大写真(黄色丸)です。

さらに2年後のぴーちゃんです。

開腹時の縫合跡が、皮膚の牽引により明瞭です。

術部(下写真黄色丸)は小さな穴という感じで認められます。

排尿も気持ちよく出来ていますが、長毛種のため尿のしぶきが被毛に付くため、まめな術部の剃毛が必要です。

この術式は本来の尿路とは異なる部位に尿道を再建・開口させます。

排尿させなければ、命に関わりますから止むを得ない処置ですが、自力で蓄尿・排尿は可能です。

乳房からの排尿となりますので、術部を清潔に保つ配慮は不可欠です。

また床面との接触、干渉もありますので尿道口の炎症から膀胱炎に至るケースもあります。

ぴーちゃん、気持ちよく排尿できるようになって良かったね!

最後に仲良しのお兄ちゃんとのツーショットです。

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