こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、オカメインコで羽に大きな腫瘤が発生し外科的に切除(断羽)した症例です。

オカメインコのデン君(雄、10歳)は左の翼に大きな腫瘤が出来て来院されました。

腫瘤の大きさのためか、デン君は飛行することは出来ない状態にあります。

加えて、患部を自傷するため断続的な出血が認められます。

下写真の黄色丸が腫瘤を示します。

腫瘤は非常に大きく、デン君の左翼が下垂しているのがお分かり頂けると思います。

見た限りでは、翼の骨の部分から発生した腫瘤の様に見えます。

翼と腫瘤は固着しています。

レントゲン撮影を実施しました。

患部の拡大像です。

腫瘤が発生している部位は大指基節骨と言われる、指の骨に当たる部位です。

この腫瘤が骨由来の腫瘍なのかは病理的な診断が必要と思われます。

細胞診を実施したいのですが、穿刺で出血が止まらなかったり、その後患部をさらに自傷するケースを経験してます。

順序が逆になりますが、外科的に切除した後に病理検査に出す方針としました。

大指基節骨と腫瘤との関係を確認のため、角度を変えて撮影しました。

下写真は拡大像です。

基節骨と腫瘤の癒着は強いと思われます。

外科的切除するにも切除後の皮膚を縫合するのは困難で、かつ出血量もかなりあると推察されます。

腫瘤を摘出するのは非常に難しく、腫瘤が腫瘍ならば細胞の取り残しからの再発があります。

加えて、愛玩鳥の自傷行為を止めさせるのは困難で、長期間エリザベスカラーで防御するのもストレスとなります。

結局、飼主様とも話し合い、断翼を実施することとなりました。

デン君は既に飛行できない状態にあり、断翼による著しい生活の質の低下はないと判断しました。

麻酔導入箱に入って頂き、イソフルランを導入して全身麻酔を行います。

維持麻酔に切り替えます。

下写真の消毒している部位を結紮し、血行を遮断した上で断翼を行います。

中手骨に第1糸を結紮します。

第2糸で結紮します。

第2糸結紮部位より遠位端をバイポーラ(電気メス)で切開します。

凝固モードで切開と止血を同時に行います。

露出している中手骨を骨剪刃で離断します。

離断した患部の断端です。

この断端部は縫合する事は出来ません。

バイポーラで焼灼して終了です。

出血も最小限で抑えることが出来ました。

患部をガーゼ包帯します。

麻酔の覚醒も問題なくクリアできたデン君です。

術後2日目にデン君は退院して頂きました。

患部の結紮した糸は1週間以内に抜糸して出血が無いのを確認しました。

下写真は術後2週間のデン君です。

患部の腫脹はおさまり、滲出液も出ていません。

手術前は歩行するのもバランスを崩していたのですが、摘出後は問題なく歩行も出来て左右のバランスもとれるようになりました。

下写真は摘出した腫瘤です。

全長は4㎝あり、オカメインコの体長からするとかなり大きなサイズであることがお分かり頂けると思います。

翼の断端面側の腫瘤です。

この腫瘤の重さは12.1gもありました。

この腫瘤を病理検査に出しました。

病理診断名は細菌感染を伴う壊死性脂肪織炎とのことです。

下写真は低倍率像です。

病巣部の中心部は広範囲に壊死を起こしており、細菌塊が散在していました。

中等度の拡大像です。

出血や偽好酸球(哺乳類における好中球)の浸潤が認められます。

高倍率像です。

壊死部周囲では肉芽増生と共に脂質を貪食したマクロファージが多数浸潤しています。

検査センターの病理医の診断では、背景に骨髄脂肪腫があり、脂肪組織の増殖性病変が存在し、そこに細菌感染が成立し壊死性病変に至ったとのことです。

結果として、病巣は完全に切除されており、予後は良好と期待されるとのコメントでした。

患部の感染拡大にはしばらく注意が必要と思われます。

デン君、お疲れ様でした!

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