トイプードル橈尺骨骨折(その3)術後経過とプレート抜去時期
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、トイプードルの橈尺骨骨折のプレート固定手術及び術後経過について載せます。
なお、以前載せた記事でトイプードルの橈尺骨骨折、トイプードルの橈尺骨骨折(その2)のリンクを貼っておきますので、興味のある方はご覧下さい。
トイプードルのフラン君(体重2㎏、去勢済、2歳)は1mの高さから落下した後、左前足を跛行するため来院されました。
早速、レントゲン撮影を実施しました。
トイ種に発生率の高い前腕骨骨折(橈尺骨遠位端骨折)であることが判明しました。
下レントゲン写真の黄色矢印は骨折部位を示します。
フラン君は体重も小さく、橈骨も非常に細いため、整復手術の術式は限定されます。
当院では、橈骨骨髄にピンを入れて整復するケースが多いのですが遠位端(足先に近い側)の骨折であることと、橈骨自体が細く骨髄も狭小のため、ピンの髄内固定法は取りやめました。
結果として、骨プレートによる内固定法を選択しました。
骨プレートは骨折部に跨って、骨プレートを骨スクリューで固定する術式のため、術後長い時間、外副子で患部を保護しなくても良いです。
加えて、骨プレートは強固で安定した内固定が得られる点、プレートは完全に体内に埋没しているため、舐めたり齧ったりなどの術後の突発事故を防ぐことが可能です。
その一方、術後長い時間、骨プレートを患部内に入れておくとストレス保護現象が生じます。
骨折部には色々な方向からストレス(外力)が加わります。
それは、骨折部への圧縮力であったり、牽引力であったりしますが、これらの力に呼応して骨を作る造骨細胞や骨を吸収する破骨細胞が骨折部に分布して骨折部の骨癒合や元の骨の形に復元していく再構築現象が展開されます。
しかし、骨プレートはステンレス等の硬い頑丈な金属で出来ていますので、プレート固定下の骨は機械的ストレスから保護される結果となり、上記のストレスから解放される代わりに、自然な骨再構築の過程は望めません。
つまり、プレートを骨折固定に用いた場合、正常な生理的反応が妨げられ、再構築過程で骨破壊が骨形成を上回り、骨粗しょう症や骨スクリューの緩みの発生及びプレート両端部の骨の再骨折などのリスクが生じるとされます。
そのため、3歳齢以下の犬の長管骨骨折に用いた骨プレートは、ストレス保護現象を避けるため一定期間後に除去するのが一般的です。
逆に言えば、中年齢以降の犬においては、骨プレートは除去する必要は必ずしもないと言えます。
上述した理由で、フラン君については、骨プレートをインプラントした後に一定期間を通した後、除去する方針で骨折整復手術を実施しました。
早速、プレートによる内固定整復手術を実施します。
フラン君の患部を剃毛し、消毒します。
骨折部を観血的にアプローチするためにメスを入れます。
下写真黄色丸は、骨折端を示します。
骨折部と周辺の軟部組織を傷つけないよう組織分割していきます。
下写真の黄色矢印は骨折端です。
骨折端をかみ合わせます。
骨折端がずれたりしない様に骨把持器で骨折部を固定します。
次いで、骨プレートを骨折部に載せます。
骨折部に骨プレートを跨るように配置し、近位端と遠位端が骨スクリューが均等に配置するようにします。
今回、フラン君のサイズに合わせて、6穴のプレートを用意し、骨折部に1穴をあてて、近位端に3本、遠位端に2本の骨スクリューを入れます。
今回、直径1.5㎜の骨皮質スクリューを使用します。
ドリルガイドを用いて、直径1.1㎜のドリルビットで下穴を作ります。
この後、ねじ山を切るため(タップ)に直径1.5㎜のタッピングを行います。
タッピングは終了し、骨スクリューを入れる穴(下写真黄色丸)を作りました。
次いで、骨スクリューを挿入します。
以下同じ手順で骨スクリューの穴を作成、骨スクリューの挿入を実施していきます。
順次、骨スクリューを挿入します。
骨プレートのサイズのバランスで近位端から4番目のホールは骨折ラインの直上に当てました。
筋膜、筋肉、皮下組織を縫合します。
皮膚縫合して終了です。
患部はスプリントで保護します。
術後のレントゲン像(スプリント装着後)です。
その拡大像です。
骨折部は一部骨皮質が欠損している部位がありますが、最終的には骨癒合します。
麻酔から覚醒して落ち着いたフラン君です。
手術は無事終了したフラン君ですが、その後は継時的にレントゲン撮影を実施し、骨癒合が完了したところでプレートを抜去する予定です。
以下に載せたレントゲン像は拡大したものですが、解像度の限界で不明瞭な点はご容赦下さい。
下写真は術後30日です。
骨折部はまだ仮骨で架橋されてなく、黄色矢印は骨折部の間隙を示します。
次に下写真は術後44日です。
骨折部の仮骨による架橋(黄色矢印)は進行していますが、まだ完全でありません。
下写真は術後72日目です。
骨折部の仮骨による架橋は完成されています。
下写真は術後93日です。
赤丸はプレートの端を包み込むように骨組織が盛り上がっています。
骨折部(黄色丸)は骨癒合が完了しています。
前述したストレス保護現象が現れています。
骨プレート除去の時期は10か月齢から3歳未満の場合、術後5~14か月と報告されてます。
Wade O.Brinker, Marvin L.Olmstead, Geoffrey Sumner-Smith, W.Dieter Prieur(1997: 296)
Manual of Internal Fixation in Small Animals. Second Revised and Enlarged Edition.
Medical Science.
下写真は術後121日目です。
骨折部の癒合も完了しています。
下写真は術後164日目です。
骨折部周囲の橈骨は太く再構築されています。
そろそろ骨プレート除去のタイミングと判断しました。
まずはプレート中央部の骨スクリューを2本抜去します。
一度にプレートと5本のスクリューを除去すると、スクリューの穴が5本分生じますので再骨折の可能性が出て来ます。
再骨折を回避するため、スクリューをまずは2本だけ除去します。
その後、2本のスクリュー跡が新しい骨組織で補てんされたら、残りのスクリュー3本とプレートを除去します。
下写真は、術後164日でスクリューを2本抜去しているところです。
プレート表面は皮下組織で厚く被覆されており、抜去する予定のスクリュー直上をメスで切開します。
スクリューをドライバーで外します。
2本のスクリューを抜去しました。
さらに術後193日目のレントゲン像です。
約一か月前に2本の骨スクリューを抜去した跡は、新しい骨組織に補てんされているのが確認出来ます。
プレートとスクリューすべてを除去することとしました。
下写真は、プレートを覆うように骨膜が盛り上がってます。
骨組織にプレートが埋没するくらいの感じで、プレート周辺の骨組織がプレートを異物として取り込もうと組織反応しており、単純にプレートを外すのに苦労します。
プレートを取り巻く軟部組織を切開して、骨ノミを軽くプレートに当ててプレートを外します。
プレートを摘出したところです。
摘出直後の側面のレントゲン像です。
プレート直下の橈骨表面は、プレートの形状のまま押し付けられたような跡を残しています。
ストレス保護現象が既に進行していたと思われます。
下写真は正面から撮影した画像で、摘出した3本の骨スクリューの穴が確認されます。
プレート・スクリュー除去後は、1週間はスプリントを装着して患肢を保護します。
麻酔から覚醒したフラン君です。
小型犬の橈尺骨骨折は、その骨の細さから整復手術の難易度も高いとされます。
そのため、骨癒合まで時間を要します。
術後も運動制限をはじめとした経過観察が重要です。
手術から完治まで半年以上要しました。
フラン君、お疲れ様でした!
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