こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、犬の脾臓を全摘出した症例です。

何らかの原因で脾臓が著しく腫大した場合、腹腔内の脾臓破裂を防ぐために全摘出を選択する場合があります。

その詳細については、過去の記事でチワワの脾臓摘出手術(結節性過形成)で載せてありますので参考にして下さい。

ゴールデンレトリバーの雑種であるレオン君(12歳10か月齢、体重23.5kg、去勢済)は食欲不振、嘔吐、下腹部の腫れが主徴で来院されました。

血液検査を行い、白血球数が21,800/μl及びCRP(炎症性蛋白)が7.0㎎/dlオーバーと明らかに体内で炎症が起こっているのが判明しました。

ちなみに赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値は正常値であり、貧血を疑う所見はありませんでした。

触診で左側下腹部の腫れが気になりましたのでレントゲン撮影を実施しました。

黄色丸で囲んである部位が大きく腫大していおり、明らかに異常です。

該当する臓器は脾臓であると思われます。

引き続き、エコー検査をしました。

エコー像では無エコーと低エコーの領域で占められる病変部が脾臓に認められました。

脾臓をエコー下で針生検して細胞診を行いました。

検査センターの病理医に調べて頂き、結果が1週間後に通知されました。

結果は、高悪性度のリンパ腫や赤血球貪食性組織球肉腫の疑いはない、つまり悪性腫瘍の疑いは低いとのことでした。

いつものことながら、細胞診と実際に摘出した臓器の病理学的診断は違うことが多いです。

細胞診の結果を待っている1週間で、レオン君の全身状態は次第に悪化してきました。

試験的に開腹し、私の肉眼的判断で脾臓を摘出するべきか否かを判断させて頂くこととしました。

脾臓を摘出するにしても、少しでも全身状態の良好な早期に取るべきであると思います。

レオン君に全身麻酔を施します。

開腹を行います。

腹筋を切開したところで非常に大きな塊(黄色矢印)が顔を出しました。

思っていた以上に脾臓が大きく腫大しています。

手荒に扱うと内部で大出血しますので、慎重に体外へ持ち上げます。

最初に顔を出したのは脾臓表面に突出した隆起の一部であることが判明しました。

その隆起の下部に腫大した脾臓が控えていました。

下写真は腫大した脾臓の全容です。

脾臓に大網(脂肪組織)が絡まっており、残念ながら脾臓の高度腫大は、写真では伝わらないかと思います。

この脾臓の状態を診て、全摘出することにしました。

脾臓は胃と複数の血管で繋がっています。

短胃動脈、左胃大網動静脈、脾動静脈の3本の血管をバイクランプ(下黄色矢印)でシーリングしていきます。

従来は縫合糸で血管をまとめて結紮し、血管を離断していたのですが、バイクランプを使用することで確実な血管シーリングが可能となりました。

脾臓摘出にかかる時間も大幅に短縮することが出来ます。

このようにして脾臓の全摘出は終了です。

脾臓摘出後、他の腹腔内臓器・リンパ節等に明らかな転移巣は認められませんでした。

高度に腫大した脾臓を摘出することで、レオン君のお腹は随分スッキリ、細くなりました。

出血も最小限に留めることが出来、手術は無事終了しました。

レオン君、お疲れ様でした!

摘出した脾臓です。

高度に腫大(特に縦方向)した脾臓であることが分かります。

脾臓の重量は2kgありました。

腫瘍であることは疑いなく、メスで患部を切開したところです。

この組織片を病理検査に出しました。

病理検査の結果では、異型性を示す紡錘形・多角形細胞が分裂している像(下黄色丸)が多く認められます。

病理検査では組織球性肉腫という診断でした。

組織球性肉腫は間質樹状細胞由来の悪性腫瘍とされます。

脾臓以外にもリンパ節、肝臓、肺、関節周囲などにも発生することが多いです。

この組織球性肉腫の好発犬種として、レトリーバー、ウェルシュコーギー、バーニーズマウンテンドッグなどが挙げられます。

レオン君は開腹して確認した限りでは、腹腔内の腫瘍は認められませんが、顕微鏡レベルでは何とも言えません。

念のため、内科的にも抗がん剤の投薬をさせて頂き、経過を診ていく予定です。

術後3日目のレオン君です。

食欲も戻り、表情も良くなってきました。

レオン君は1週間の入院の後、元気に退院することが出来ました。

ベティ(写真中央)と避妊手術で入院中のマリリンちゃん(青色☆)とレオン君(黄色☆)のスリーショットです。

みんなでレオン君の退院を祝っての一コマです。

レオン君は今後、組織球性肉腫がどんな挙動を示すか、経過観察していく必要があります。

レオン君、頑張っていきましょう!

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