ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫(その2)
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの肥満細胞腫です。
この肥満細胞腫は以前にもご報告させて頂きました(頭部に生じた皮膚型肥満細胞腫)。
詳細について興味のある方はこちらをクリックして下さい。
肥満細胞腫はイヌにおいては皮膚腫瘍の中で最も発生頻度が高いとされています。
ハリネズミについてはまだその詳細は解明されていません。
肥満細胞は体の中でアレルギー反応や炎症過程に不可欠な役割を果たしています。
免疫グロブリン(IgE抗体)が肥満細胞表面に結合すると、肥満細胞はヒスタミンやヘパリンを局所及び循環血中に放出し、アレルギー反応を引き起こします。
このヒスタミンは好酸球を引き寄せる特徴があり、またこの好酸球はヒスタミンを中和します。
そんな肥満細胞が腫瘍を惹起させたのが肥満細胞腫で、悪性腫瘍です。
ヨツユビハリネズミの吉田大福君(雄 4歳11か月齢)は左腋部に大きな腫瘤が出来たとのことで来院されました。
下写真の黄色丸がその腫瘤を示します。
腫瘤の皮膚表面は床面との干渉で裂けて痂皮が形成されています。
かなり大きな腫瘤ですが、見る限り腫瘍の可能性が大きいと思われました。
早速、細胞診をしてみましたが、紡錘形細胞が大量に認められ、軟部組織肉腫が疑われました。
飼い主様の了解を得て、腫瘍の外科的摘出を実施することとしました。
麻酔導入箱に吉田大福君を入れます。
イソフルランは効いて来たようで吉田大福君は寝てます。
導入箱から出てもらい、維持麻酔をします。
患部周辺は滲出液で汚染されていますので、消毒洗浄をします。
患部にメジャーをあててみました。
長軸方向だけでも40㎜を超える大きさがあります。
側面からのアングルですが、うっ血色を呈しており、触診では皮下脂肪の中を背側面まで浸潤しているように思われました。
生体情報モニターにセンサーをつなげていよいよ手術を行います。
腫瘍を囲い込むように船形に皮膚切開を施します。
電気メス(バイポーラ)を使用して、止血しながら慎重に組織を分離していきます。
腫瘍の至るところに太めの栄養血管が分布してます。
血管を傷つけないように滅菌綿棒を使って、ゆっくり腫瘍を健常組織から剥がします。
なるべく麻酔時間を短縮したいので、太い栄養血管の縫合糸による結紮は避けて、バイクランプでシーリングして血管を離断します。
バイクランプとバイポーラの併用で何とか、出血も回避できそうです。
一先ず、これで手術は終了かと思われたのですが。
かなり大きな腫瘍でしたが、その真下に新たに腫瘤が控えていました(下写真黄色丸)。
当初、私はこれは腋下のリンパ節かと思っていたのですが、病理検査にこの組織を出してみて新たな発見が得られました。
取り敢えず、リンパ節であれ廓清のためにも、この組織を摘出することとしました。
どちらかと言うと周りの組織から単離した感のある組織でした。
バイポーラで摘出したところです(下写真黄色丸)。
摘出した部位は皮下組織内も筋肉組織にも腫瘍を思わせる組織はありません。
出血も最小限で抑えることが出来ました。
最後に皮膚縫合を5-0ナイロン糸で縫合します。
これで吉田大福君の手術は終了です。
皮下輸液(乳酸リンゲル液)を実施してます。
麻酔から覚醒し始めた吉田大福君です。
術後1時間立たないうちにフードを食べ始めています。
摘出した皮膚表層部から背側面の筋肉層まで伸びていた腫瘍です。
吉田大福君の300gの体重からすれば、巨大な腫瘍です。
下写真は上の巨大な腫瘍の真下に存在していた組織です。
二つの腫瘤を並べてみました。
大きな腫瘍は重さが27gありました。
吉田大福君の体重の約1割にあたります。
50㎏の体重の大人なら5kgに匹敵する腫瘍です。
手術2日後の吉田大福君です。
退院直前の写真です。
食欲もしっかりあり、元気に退院して頂きました。
さて、摘出した腫瘍のうち、大きな方の病理写真です(中拡大像)。
下はその高倍率像です。
多形性・異型性に富む腫瘍細胞(紡錘形、多角形、類円形)のシート状・錯綜状・束状増殖が特徴です。
これらの腫瘍細胞は、分化度が低く起源が特定できない高悪性度肉腫との病理医からの判定でした。
続いて、私がリンパ節と思い込んでいた組織の病理写真です(中拡大像)。
下写真はその高倍率像です。
多形性のある円形・類円形細胞のシート状増殖によって特徴づけられます。
腫瘍細胞の周囲には多数の好酸球が認められます。
特殊染色(トルイジンブルー染色)等でさらに厳密な判定をしていただいた結果、肥満細胞腫であることが判明しました。
巨大な腫瘍とこの肥満細胞腫との関連は不明です。
全く、タイプの異なる腫瘍が混在していたのかもしれません。
いづれにせよ、ハリネズミは腫瘍が多い動物種であると感じます。
最近の当院では、ハリネズミの手術は9割近くが腫瘍の摘出になってます。
子宮の腫瘍が一番多いですが、皮膚の腫瘍も次いで増加傾向にあります。
今回の様に巨大でも皮下脂肪に留まる腫瘍は、比較的安全に摘出が可能です。
しかしながら、筋肉層や腹腔内、口腔内、食道・気管内に及ぶ腫瘍は摘出は困難です。
何しろ、体重が300~400gの動物ですから限界があります。
それでも、摘出を希望して当院を受診される飼主様もお見えです。
出来る限り、ご要望に応えられるように、今後も最善を尽くしたいと思います。
下写真は、抜糸のため来院された吉田大福君です。
傷口も綺麗に治り、体のラインもスリムに見えます。
今後は、再発や転移がないか、経過観察が必要です。
吉田大福君、お疲れ様でした!
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