犬の肛門周囲腺腫
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、犬の肛門の腫瘍である肛門周囲腺腫です。
犬の皮膚・皮下組織に発生する腫瘍は、全腫瘍の3分の1を占めるとされます。
その中でも肛門周囲腺腫は肥満細胞腫について2番目に発生率が高い腫瘍とされます。
肛門周囲腺腫は肛門腫瘍の中でも80%以上を占めており、また良性の腫瘍であるため心配はないと考える向きもあります。
とは言え、肛門腫瘍の20%は悪性腫瘍(肛門周囲腺癌、肛門嚢アポクリン腺癌)です。
もし、悪性腫瘍であれば周囲臓器・局所リンパ節への浸潤、遠隔臓器への転移、術後の再発など慎重な対応が必要となります。
ミニュチュア・ピンシャーのゲン君(15歳、雄)は肛門が腫れているとのことで来院されました。
下写真のように時計方向で4~6時方向の肛門(黄色丸)が腫れているのがお分かり頂けると思います。
肛門腫瘍の可能性が高いと思われ、早速細胞診を実施しました。
結果として、肛門周囲腺腫が疑われます。
ゲン君自身も患部が気になるようで肛門を舐めたり、床に擦ったりしているようです。
患部の腫大も増大傾向を示しているとのことから、早速外科的に摘出することとなりました。
肛門周囲腺腫は雄、特に高齢で未去勢犬に多く認められることから男性ホルモン(アンドロゲン)依存性が考えられています。
今回はゲン君は肛門周囲腺腫摘出に加えて、去勢手術を実施することとしました。
気管挿管してイソフルランで麻酔導入してるゲン君です。
まずは去勢手術をするため、陰嚢周囲を消毒します。
陰嚢を切皮して、精巣を包む総鞘膜に切開を加えているところです。
去勢手術の模様は省略します。
次に伏せの姿勢にして、お尻を高く上げて肛門周囲腺腫の手術に移ります。
下写真黄色丸の腫瘍をこれから切除します。
事前に肛門嚢を圧迫して、分泌液をしっかり排出させます。
加えて、糞便の流出を防ぐために綿花を直腸内に挿入します。
腫瘍の近傍からメスを入れて行きます。
肛門の同心円状に平行に切皮します。
切皮すると腫瘍が顔を出します。
肛門周囲腺は発生学的には皮脂腺に分類されます。
一般に肛門周囲腺腫は浅在性で、悪性の肛門周囲腺癌などのように底部周囲組織への固着例は少ないとされます。
加えて、肛門周囲腺腫は数か月以上時間を掛けながら成長していき、無症候性で痛みを伴うことは少ないです。
いずれにせよ、肛門周囲は血管が多く集まっていますので摘出となるとそれなりの出血は避けられません。
極力、出血量を最小限にするためにバイポーラ(電気メス)で止血・切除を繰り返していきます。
下写真は腫瘍の基底部にアプローチしたところです。
下写真は腫瘍を切除したところです。
切除後の患部です。
特に出血もなく摘出は完了しました。
皮下組織を吸収糸で縫合した後に皮膚を縫合します。
縫合が終了しました。
全身麻酔からゲン君は少し覚醒し始めています。
摘出した肛門周囲腺腫の組織です。
下写真は顕微鏡写真の中拡大像です。
さらに強拡大像です。
下写真の肛門周囲腺は形態的に肝臓の細胞に似ています。
この肝様細胞に類似する多角形腫瘍細胞の島状増殖より患部は構成されています。
肛門周囲腺腫は良性腫瘍であり、リンパ節への浸潤・他の組織への遠隔転移もなく、完全摘出で90%以上が完治するとされています。
ゲン君は15歳という高齢での手術でしたので、麻酔等いろいろ不安な点もありましたが問題なくクリアできて良かったと思っています。
最後にゲン君の抜糸後の肛門周囲です。
ゲン君、お疲れ様でした!
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