コーギーの炎症性腸疾患(IBD)
こんにちは 院長の伊藤です。
犬は様々な原因で腸疾患に罹りますが、その中でまだ原因が明確に究明されていない疾患の一つに炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)があります。
本日、ご紹介させて頂きますのはこの炎症性腸疾患(IBD)に罹患されたウェルッシュ・コーギーです。
ウェルシュ・コーギーのさくらちゃん(避妊済 9歳)は下痢(軟便)が続くとのことで来院されました。
検便をしたところ、芽胞菌のクロストリジウムが多数検出され、クロストリジウム性腸炎と診断して抗生剤を処方しました。
クロストリジウム性腸炎については、興味のある方はこちらをクリックして下さい。
10日ほど内服して頂いたのですが、さくらちゃんの下痢は改善することなく、さらに嘔吐まで頻発し始めました。
食欲は全くなく、体重は10日余りで1kgも落ちてしまいました。
シンプルなクロストリジウ性腸炎なら1~2週間内の抗生剤(アモキシシリン)で完治するはずなんですが・・・・・・・。
レントゲン撮影を実施しましたが、異常所見は見当たりません。
血液検査をしたところ、総蛋白3.8g/dlと低タンパク血症を示しており、加えて総アルブミン1.2g/dlと低アルブミン血症に陥ってます。
さくらちゃんは、いわゆる蛋白漏出性腸症になっていました。
蛋白漏出性腸症とは消化管粘膜から血漿蛋白が胃腸管腔へ大量に漏出することにより低タンパク血症を起こす病態をいいます。
加えて炎症性蛋白(CRP)は7.0mg/dlオーバーと激しい腸炎を起こしていることが伺われました。
いまだ出血を伴った下痢便・腸粘膜が剥離した粘膜便が続いています(下写真)。
ここで対症療法、抗菌薬に反応しない点から、IBDを疑いました。
世界小動物獣医師会(WSAVA)が提唱するIBDの臨床診断基準は以下の5点が挙げられています。
1:慢性消化器症状が3週間以上継続する。
2:病理学組織検査で消化管粘膜の炎症性変化が明らかである。
3:消化管に炎症を起こす原因が認められない。
4:食餌療法、抗菌薬、対症療法で完全に良化しない。
5:抗炎症、免疫抑制療法に一般に反応する。
IBD治療の第一選択薬はコルチコステロイドです。
まずは試験的にコルチコステロイド(プレドニゾロン)を免疫抑制量1.0mg/kgを処方しました。
その結果、1週間以内には嘔吐、下痢は改善しました。
細菌性腸炎の場合は、第一選択に抗生剤を選択するわけですが、効果が明らかでないときにステロイドを投薬するのは不安が付きまといます。
さくらちゃんは、ステロイドに反応して消化器症状は治まりました。
このIBDですが、腸内細菌や食物を自身の免疫細胞が抗原(異物)として認識し攻撃を加えることで生じる炎症性の腸疾患です。
しかし、なぜ自身の腸内細菌や餌が異物として攻撃されるのかは不明です。
したがって、IBDとは胃、小腸および大腸の粘膜において原因不明の慢性炎症を起こし、慢性の消化器症状を呈する症候群と認識して下さい。
治療法はコルチコステロイド、療法食(特に新奇蛋白食や加水分解色)、抗菌薬(メトロニダゾール、タイロシン)の投薬から始めていきます。
現時点で、このIBDはステロイドに良好に反応するけれど、多くの症例で長い期間あるいは一生何らかの形で投薬は必要とされています。
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さくらちゃん、これからも定期的な健診は必要と思いますが、頑張って行きましょう!
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