こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、チンチラの上腕骨骨折の症例です。

チンチラは、ウサギと比較して後肢で立ち上がり、前肢で餌を保持して摂食する姿勢をとることが多く、骨折は圧倒的に後肢に多いと感じています。

そんな中にあって、今回は前肢の骨折例を観血的な外科手術による整復でなく、外固定による整復で治療したケースをご紹介します。

チンチラのリグ君(雄、2歳、体重506g)は左前肢に力が入らなくて痛そうにしているとのことで来院されました。

リグ君は左の前足を拳上するのが辛そうです。

現状では、3本足歩行してるとのことです。

レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色矢印は、上腕骨の骨折してる部位を示します。

骨折部位の拡大です。

骨折端は斜めになっています。

上腕骨骨幹部の斜骨折です。

下写真は仰臥位像です。

黄色丸は骨折部位です。

拡大像です。

骨折の原因が飼主様にも不明とのことでした。

チンチラは極めて俊敏な動きをしますので、後肢ならともかく前肢は気づくのに時間がかかるかもしれません。

上腕骨骨折の場合、骨髄ピンを打ち込むか、あるいは創外固定ピンで整復するかを検討するところです。

しかし、飼い主様としては、あまり費用をかけられない背景がありました。

そのため、綺麗に骨折部が癒合する約束はできないけれど、レナサーム(熱可塑性ポリキャスト包帯)による外固定法での治療をお勧めしました。

チンチラは前肢で餌を把持して捕食する動物ですから、上腕骨骨折となると採食に苦労します。

しかし、体重を後肢にかけて二本足で立ち上がる姿勢を取ることも多く、前肢の骨折であれば外固定で骨癒合まで持っていけると思いました。

レナサームは熱湯で軟化する包帯で、患部を整復後に巻いて、継時的に硬化を待ちます。

強度はかなり固く、チンチラの切歯を持っても破壊するのは困難です。

ただ鎮静なり、麻酔なりしなければ骨折整復できませんので、今回全身麻酔を実施します。

リグ君に麻酔導入箱に入ってもらいます。

イソフルランを流し、麻酔導入します。

5分ほどでリグ君はぐったりしてきましたので、外に出してマスクを嵌めて維持麻酔を実施します。

骨折部位をバリカンで剃毛します。

ある程度、しっかり剃毛しないとレナサームのフィット感が出せません。

皮膚を保護するためにキャストパッドプラス3Mを骨折部位周囲に巻きます。

次いで熱湯に入れて軟化させたレナサームをリグ君の肘関節から上腕骨近位端(腋下部)までスプリントとして当てます。

この時、骨折部周囲を優しく押さえつつ、つま先を持って牽引し、出来る限りの整復をします。

最終的に下写真のように肘関節を上下に挟み込むようにレナサームを巻き付け、つま先から腋下部まで粘着テープでずれないように固定します。

チンチラの前肢は短いため、本人の挙動によってはスポンとレナサームごと外れてしまう事があります。

最後に自咬によるレナサームへの干渉を防ぐためにべトラップ(粘着テープ)を巻いて終了です。

全体でみると前肢の外固定が大きくなってしまいましたが、何とか骨癒合までの数か月を耐えて頂きたいと思います。

麻酔から覚めたリグ君です。

整復後のレントゲン像です。

拡大像です。

あくまで徒手整復ですので、ピンニングのように完全な整復は出来ませんが、今後の経過を診て行きます。

同じく仰臥位のレントゲン像です。

拡大像です。

下写真は術後4週後の画像です。

黄色矢印が骨折部を示します。

下は4週目の仰臥位像です。

まだ術後4週では癒合は出来ていません。

続いて下写真は10週目です。

黄色丸は骨折部を示します(レナサームは外れかけています)。

多少の上腕骨の変形はありますが、骨癒合が完了しているのがお分かり頂けると思います。

患部の拡大像です。

下写真は側臥像です。

骨折整復部がずれていましたが、骨折端が50%接触していれば骨癒合に至るとされますので、外固定で十分対応できたと思われます。

拡大像です。

術後10週のリグ君です。

レナサームを外して、すっきりした表情です。

左前肢に荷重もかけることが出来ています。

歩行にも問題がありません。

10週に及ぶ外固定でしたから、左前肢の被毛はバサバサですが、これから換毛と共に元に戻ります。

重くて邪魔なレナサームと思いますが、リグ君はよく耐えて頂いたと思います。

リグ君、お付けれ様でした!

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