チンチラの腸重積(その1)
チンチラは齧歯目に属しており、アンデス山系の3000m以上の高山に生息する完全草食獣です。
その寿命は15~20年と言われており、犬猫の寿命と変わらない点が特徴です。
ウサギ同様、後腸発酵を行い胃から大腸まで2.5mから3.5mあり、とくに空腸が長いとされています。
加えてチンチラは胆嚢がなく、脂肪の分解能力は非常に弱いとされます。
したがって、ウサギやモルモット、ハムスターフードでは餌の代用にはなりません。
むしろ、チモシー等のイネ科の牧草を主食としてチンチラ用のペレットを副食として与えて下さい。
今回、ご紹介するのはこのチンチラ君です。
生後2か月で体重200gです。
チンチラは体格の割に体重は軽量で成獣でも約600gほどしかありません。
肛門から直腸が脱出しているということで来院されました。
黄色丸の箇所が脱出してる直腸です。
一般に下痢や便秘などの基礎疾患に続発するケースが多いです。
他のエキゾチックアニマル同様、直腸脱であれば当院のHPで他の動物種でご紹介している手法で対応できます。
しかしながら、今回は直腸脱ではなく腸重積であることが判明しました。
腸重積とは、ある腸分節(内筒)が隣接する腸の内腔(外筒)に嵌まり込む状態をさします。
直腸脱と腸重積の鑑別はどうするかというと、肛門と脱出している直腸の間(隙間)に先端の丸いゾンデ(探子)が深く挿入できれば腸重積です。
今回のチンチラ君はゾンデがしっかり挿入可能でした。
残念ながら、腸重積は開腹手術を実施して重責部分を整復する必要があります。
早速、全身麻酔をかけ開腹手術です。
黄色丸印が腸重積を起こしている下行結腸です。
黄色矢印は炎症を起こしている下行結腸です。
重責の部分をまずは整復し、その組織が壊死していないのを確認しました。
炎症を起こしている下行結腸が気になるのですが、潔く切除して結腸を吻合すべきか悩みましたが、生後2か月・体重200gという状況から投薬で治療していくこととしました。
できうる限り短時間で閉腹しました。
麻酔の覚醒は速やかでした。
術後、腹部の疼痛に耐えている状態です。
チンチラはウサギに比べても非常にデリケートな草食獣です。
腸重積になって時間の経過が長いと腸の重責部が壊死を起こし、腹膜炎から敗血症に至る場合もあります。
食餌管理を誤って、重篤な消化器疾患に陥った場合、予後が非常に悪いため注意が必要です。