こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)です。

以前に他の患者様の口腔内悪性黒色腫の症例を報告しておりますので、興味のある方はこちらをクリックして下さい。

悪性黒色腫は、犬で好発する悪性度の高い腫瘍であり、乳腺癌、肥満細胞腫に次いで3番目に多い悪性腫瘍とされます。

年齢は10~14歳が発生のピークとされます。

発生する部位として、口腔内組織、口唇部、皮膚、眼球、指端部、眼瞼部、肛門周囲組織という順で挙げられます。

悪性黒色腫は皮膚粘膜移行部の粘膜側や口腔内の粘膜内に形成されます。

犬の口腔内悪性黒色腫は、高い局所侵襲性と高い転移性を持つとされます。

口腔内悪性黒色腫の一番の治療は外科的摘出です。

中央生存期間は7か月が一般的です。

しかし、外科的摘出を実施しなかった場合は、中央生存値はわずか2ヶ月とされます。

したがって、メラノーマの診断後は速やかな対応が必要とされます。

パグの武蔵(ムサシ)君(12歳10か月齢、去勢済、体重8.5kg)は左下顎の歯肉に腫瘤が出来たとのことで来院されました。

下写真黄色丸が患部の歯肉に発生した腫瘤です。

当初、エプリスとも思えたのですが、良く見ると腫瘤が黒色を一部呈しており、メラノーマの可能性も考慮する必要があります。

一般に口腔内に発生する悪性腫瘍は、大雑把に言うと線維肉腫20%、扁平上皮癌30%、悪性黒色腫(メラノーマ)40%です。

武蔵君の患部腫瘤の細胞診では、悪性黒色腫の疑いありとなりました。

患部近傍及び体表部のリンパ節の腫大はなく、レントゲンによる顎骨、顎関節や肺野への腫瘍転移の兆候は認められませんでした。

口腔内に発生した悪性黒色腫は急速に増大して、その歯肉原発症例の57%が骨浸潤を来すとされます。

悪性黒色腫の術後の再発・転移が高いのは、その侵襲性の高さによるものと言えます。

顎骨への転移が認められれば、下顎骨の切除も視野に入れる必要があります。

審美的にも下顎を切除することに難色を示す飼主様も多いです。

今回、飼主様も下顎切除まで希望されてない点と口腔内で切除出来る範囲を取って欲しいとの希望に合わせて外科手術を実施しました。

実際、短頭腫のため下顎を切除するとしても、切除後の採食行動が困難になるのは予想されます。

従って、可能な範囲の腫瘍切除手術となります。

武蔵君に全身麻酔を施します。

下写真の腫瘍(黄色丸)をこれから切除します。

腫瘍の付け根の部分に綿棒を差し込み、歯肉と腫瘍の間を連結する組織を確認します。

イメージとしては、茎の短いキノコのような形状をした腫瘍です。

早速、モノポーラで腫瘍付根を焼き切ります。

高熱で焼き切ってますので、歯肉が焦げて煙を出しています。

下写真黄色矢印が腫瘍の切断中の断面を示します。

青矢印は腫瘍本体(裏面)を示します。

下写真黄色丸は切除した腫瘍です。

腫瘍の裏面は電気メスの熱で焦げ、炭化しています。

さらに歯肉を含めて腫瘍が残っている部位をバイポーラ及びモノポーラで焼いて切除します。

下写真黄色矢印は患部腫瘍切除痕です。

切除出来る範囲は電気メスで切除しました。

麻酔から覚醒し始めた武蔵君です。

下写真は最終的な患部切除部です。

炭化して熱変性してますが、今後の経過を診ていきます。

下写真は切除した腫瘍です。

腫瘍底部は電気メスによる炭化が認められます。

病理検査の結果です。

病理医の診断は口腔の悪性黒色腫(高悪性度)でした。

下写真は低倍率の病理像です。

歯肉粘膜下組織に中等度に異型性を示す類円形・紡錘形腫瘍細胞がシート状の増殖巣を構成しています。

下写真は高倍率像です。

腫瘍細胞が細胞質内にメラニン色素顆粒を有しています(黄色矢印)。

また一部の腫瘍細胞は軟骨細胞への分化を示し、腫瘍細胞の脈管浸潤像は認められませんでした。

悪性黒色腫はメラノサイト由来の悪性腫瘍であり、犬の口腔内に発生するメラノサイト由来の腫瘍は全て悪性に分類されます。

今回の武蔵君の腫瘍は、異型性や高頻度の核分裂像(4個以上/高倍率10視野)が確認され、高悪性度と判定されました。

術後の経過も良好で無事、武蔵君は退院されました。

下写真は、術後3か月後の武蔵君の口腔です。

次いで、術後7か月後の口腔です。

下写真は、術後11か月の口腔内です。

最後に術後14か月後の口腔内です。

この記事を書いている現在、術後15カ月となる武蔵君ですが経過は良好です。

今後も口腔内はもとより、肺野への遠隔転移など注意して、経過観察を続けていきたいと思います。

武蔵君、お疲れ様でした!

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