こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、リチャードソンジリスの軟部組織肉腫です。

この軟部組織肉腫ですが、軟部組織から発生した肉腫(悪性間葉性腫瘍)を総称した診断名となります。

軟部組織肉腫には、線維肉腫や血管周囲肉腫、末梢神経鞘腫、平滑筋肉腫などが含まれます。

リチャードソンジリスの軟部組織肉腫については、犬のそれとは異なり、詳細は不明です。

今回は、短期間に腫瘍が増殖し、腫瘍を覆っている上皮が圧迫・壊死、加えて骨・神経にまで浸潤した症例です。

リチャードソンジリスのななちゃん(雌、4歳、体重350g)は右前足(手首の関節より先)が腫れ上がっているとのことで来院されました。

下写真は、前足にテーピングをしているななちゃんです。

手術前の写真を撮っていないため、手術中の写真で確認して頂きます。

手首の関節(手根関節)周囲が腫大しているため、レントゲン撮影を実施しました。

下写真(黄色矢印)では、指骨の一部が融解しています。

さらに下写真(黄色矢印)では、手根関節の一部が融解しています。

患部の細胞診を実施したところ、異型性を示す細胞(腫瘍細胞)が確認されましたので外科的に摘出する方針を選択しました。

今回の腫瘤は手根関節から前腕部にかけて瀰漫性に浸潤しているため、やむを得ず肘関節から断脚することとしました。

前足の断脚は摂食時に餌を両前足で把持できなくなるなど不便な点もありますが、今回は患部が既に一部壊死しているため、選択の余地がありません。

下写真は、腫瘍が手根関節周辺部に浸潤して、自傷も加わり壊死を起こしている状態を示しています。

これから全身麻酔を実施します。

ななちゃんに麻酔導入箱に入って頂きます。

麻酔導入もスムーズに完了して、維持麻酔を行います。

患部周辺の剃毛、消毒を行います。

下写真のレイアウトで手術を実施します。

肘関節にメスで切開を加え、靭帯を離断します。

まず肘関節周囲の皮膚の切開を行います。

続いて筋膜・筋肉層を切開、分離していきます。

肘関節周辺の血管をバイクランプでシーリングします。

筋肉層と靭帯を離断します。

筋肉層を合成吸収糸で縫合します。

最後に皮膚を5-0ナイロン糸で縫合します。

皮膚の縫合終了です。

全身麻酔を切ります。

断脚後の患部です。

麻酔から覚醒後のななちゃんです。

摘出した前足です。

この角度からだと既に壊死が進行しているのが分かります。

患部を病理検査に出しました。

中拡大像です。

新皮から皮下組織に高度に異型性を示す紡錘形腫瘍の錯綜状・充実性シート状の増殖巣が認められます。

腫瘍細胞は結合組織間や骨格筋間に高度に浸潤しており、手根部では骨組織が破壊されていました。

高倍率像です。

腫瘍細胞は豊富な好酸性細線維状細胞質、高度に大小不同を示す楕円形から長円形正染性核及び明瞭な核小体を有しています。

病理学的な結論として、紡錘形細胞を主体とする紡錘形細胞肉腫、いわゆる軟部組織肉腫とのことです。

今回、特に腫瘍細胞に高度な異型性や浸潤性が認められるため悪性度が高いです。

南部組織肉腫は、強い局所浸潤性を示すために外科切除後の再発率が高いため、今後もななちゃんは要経過観察です。

下写真は術後1か月のななちゃんです。

右前足を失ったわけですが、歩行や摂食に特に大きな負担なく、日常生活を送ることが出来ています。

ななちゃん、お疲れ様でした!

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