フクロモモンガの大腿骨骨折
こんにちは 院長の伊藤です。
本日の疾病紹介は、フクロモモンガの大腿骨骨折です。
フクロモモンガは立体的な行動をとります。
ケージも高さのあるものを利用されるご家庭が多いと思います。
高い所から飛び降りたりする際に爪をひっかけたり、ゲージで挟んだりするアクシデントが多い動物です。
そんなフクロモモンガですが、本日は大腿骨骨折という日常的には遭遇することの少ない症例紹介です。
コウガ君(約1歳、雄)は左後肢をブラブラさせている(下写真黄色矢印)とのことで来院されました。
触診すると大腿骨が骨折している感じを認めたため、レントゲン撮影を実施しました。
下のレントゲン写真黄色丸の部位(大腿骨骨幹部)が斜骨折しているのが分かります。
大腿骨をいかに固定するかですが、小型愛玩鳥やハムスターのような小型齧歯類であれば注射針を利用した骨髄内ピン固定を選択します。
フクロモモンガのような体の柔軟性のある動物の場合、ギプスによる外固定だと患部への自傷行為が酷くなりますので外固定は選択外です。
ピンを皮膚から骨へ何本も刺入して固定する創外固定法もギブス固定同様、フクロモモンガには不適です。
何も処置せず、そのまま放置で自然に骨癒合を待つという手もありますが、コウガ君の場合は大腿骨が竹槍のごとく斜めに割れていますから、放置すると骨折面が筋肉や血管を深く傷つけ開放骨折に至ります。
結局、骨髄腔が直径1.0から1.2mmなので0.8mmの髄内ピンによる固定を選択しました。
コウガ君に全身麻酔を施し、患部周囲を剃毛します。
下写真黄色丸は骨折により、皮下出血しています。
骨折部位から髄内ピンを刺入ため、皮膚から筋膜を切開します。
下写真黄色丸は筋肉を穿孔して突出した骨折端です。
骨折遠位端からピンを膝関節に向けて電動ドリルで刺入します。
ピンニングの手技についてはウサギの橈尺骨骨折(ピンニング法)の記事で詳細をまとめてありますのでこちらをクリックして下さい。
膝関節まで一旦、ピンを貫通させます。
電動ドリルの把持を逆方向に変えて、今度は骨折部に向けてピンを進ませます。
次が一番難しい所で、骨折部を整復して元の状態に戻します。
コウガ君の場合は、斜骨折で骨折端の一部が割れており、パズルのように完全な骨折部の修復は困難です。
下写真の黄色矢印は骨折部の近位端(股関節に近い側)です。
鉗子で牽引して骨折部を整復します。
整復したところで骨折部にピンを貫通させ、近位端までピンを進めます。
フクロモモンガの大腿骨は短いため、電動ドリルでは股関節部まで一気に貫通するため、マニュアルでピンニング出来るピンバイスに付け替えます。
ここでレントゲン撮影を実施し、ピンニングが上手く出来ているか確認します。
問題ないのを確認して、ピンの先端部をペンチでカットします。
下写真が膝関節から突出してるピンの端です。
骨癒合後にこのピン先を鉗子で把持して引き抜き、治療は終了となります。
筋膜を吸収性縫合糸で縫合します。
皮膚を5-0ナイロン糸で縫合して手術は終了です。
術後のレントゲン写真です。
ピンは骨折部を固定出来ているようです。
麻酔から覚醒したコウガ君です。
術後3日目のコウガ君です。
最初は患肢をかばっていましたが、少しずつ荷重出来るようになって来ました。
退院当日のコウガ君です。
フクロモモンガはエリザベスカラーが大嫌いですが、それでも少し慣れてくれたようです。
術後2週目で抜糸した患部です。
患肢の運行も問題なく出来ています。
立体的な動きをするフクロモモンガですが、爪折れや脱臼する場合もありますし、今回のような骨折になる場合もあります。
くれぐれも飼主様、注意してお世話してあげて下さい。
コウガ君、お疲れ様でした!
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