こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、フクロモモンガの腫瘍です。

フクロモモンガも他のエキゾチックアニマル同様、各種腫瘍を発生します。

今回のフクロモモンガは、乳腺周囲に生じた腫瘍ですが乳腺腫瘍ではなく、間葉系(非上皮性)腫瘍でした。

フクロモモンガの福ちゃん(6歳5か月齢、雌)は右の下腹部に腫瘤が出来たとのことで来院されました。

右の乳房周辺が腫大し、腫瘤が形成されていました。

乳腺腫瘍の疑いもあり、まずは細胞診を実施し、検査センターに依頼しました。

その結果は、上皮性腫瘍の疑いありとのことでした。

病理医は、悪性か良性かの判断は困難で病理検査を推奨してます。

毎度のことですが、術前の患部細胞診と術後の患部病理所見は食い違うことがあります。

私の見解は、怪しき腫瘤は、状況が許す限り(腫瘍の種類・ステージ・動物の年齢など)小さいうちに摘出することをお勧めしています。

飼い主様の要望もあり、患部腫瘍を外科的に摘出することとなりました。

福ちゃんに麻酔導入箱に入って頂き、イソフルランの導入を実施します。

麻酔導入も完了して、維持麻酔に切り替えました。

患部周囲の被毛をカミソリで剃毛します。

下写真の福ちゃんの下腹部中央部に裂孔(青矢印)が認められます。

これは、赤ちゃんが出生と同時に這い上がって潜りこむ育児嚢という袋の入り口です。

有袋類の特徴の一つでもありますが、乳首はこの育児嚢の中に存在します。

腫瘍は育児嚢と乳腺周囲に及んでいる感があります。

問題となる腫瘍は下写真の黄色丸で囲ってあります。

写真では分かりにくいかもしれませんが、それなりの大きさがあります。

育児嚢の外側を囲むような形で存在しています。

イソフルランの維持麻酔も安定してきました。

これからメスを入れます。

腫瘍の直下には育児嚢があり、薄皮を剥がすように腫瘍を露出していきます。

腫瘍が顔を覗かせています。

腫瘍に太い栄養血管が存在していますので、バイクランプで血管をシーリングします。

何ヶ所か血管をシーリングして、腫瘍の全貌を明らかにします。

直下の育児嚢までは腫瘍の浸潤はないようです。

電気メス(バイポーラ)で腫瘍の基底部を焼き切ります。

腫瘍切除後の患部です。

一部の乳腺を腫瘍と共に切除しました。

患部を縫合します。

これで手術は終了となります。

摘出した腫瘍です。

長軸は2㎝近くあります。

腫瘍の割面です。

内部は炎症・化膿しています。

病理検査の所見です。

下写真は中等度の倍率像です。

異型性の顕著な類円形・紡錘形細胞の錯綜状・束状増殖により腫瘤が形成されています。

高倍率の病理像です。

腫瘍細胞は豊富な好酸性細胞質、大小不同な類円形から細長い正染核、異常な核分裂像が目立ちます。

非常に悪性度の高い腫瘍であることが判明しました。

非上皮(間葉系)の悪性腫瘍であり、いわゆる肉腫と呼ばれる腫瘍です。

細胞診では上皮系腫瘍の疑いで当初、乳腺腫瘍の可能性を考えてました。

前述の通り、細胞診と病理検査の結果の違いが出て来ました。

なお、腫瘍の辺縁部には腫瘍性変化を示さない乳腺組織が認められるとの病理医のコメントがありました。

実際、摘出した腫瘍は非上皮系腫瘍とのことですから、将来的に体腔内に発生する可能性もあります。

今後、慎重なモニタリングが必要です。

傷口がしっかり癒合するまでは、カラー装着の生活が必要となります。

ストレスの多い生活となりますが、頑張って乗り越えて頂きたいと思います。

福ちゃん、お疲れ様でした!

 

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