こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、ヨツユビハリネズミの腫瘍(肥満細胞腫)です。

ウニ君(2歳2ヶ月、雄)は頭頂部に腫瘤が認められるとのことで来院されました。

針の中で皮膚がどの程度腫れているかを評価するのは、思いのほか難しいです。

下写真の黄色丸の箇所が皮膚にできた腫瘤です。

腫瘍の可能性も踏まえて、細胞診を実施しました。

検査センターからの回答は肥満細胞腫が第一に考えられるとのこと。

犬猫では肥満細胞腫は悪性の腫瘍であり、付属リンパ節や脾臓を初めとする内臓への波及も考えなくてはなりません。

局所的に独立して発生している肥満細胞腫であれば、外科的な摘出が第一選択となります。

その一方で、フェレットの肥満細胞腫は皮膚に好発し良性の挙動を取ります。

動物種により同じ腫瘍であっても、その挙動は異なります。

ヨツユビハリネズミについては、現時点では肥満細胞腫がどんな挙動を取るかは不明です。

飼い主様の了解のもと、摘出手術を行うこととしました。

麻酔導入箱にウニ君に入ってもらい、イソフルランを流します。

麻酔導入が効いて来たところで、直接口に自作ガスマスクをかけて維持麻酔を行います。

患部を露出するために針を一本づつ、可哀そうですが抜いていきます(黄色丸)。

下写真に現れたのが腫瘍(肥満細胞腫)です。

皮膚腫瘍を摘出する場合はマージンを十分に取る必要があります。

しかしながら、腫瘍が耳根部に接触しており、場所が頭頂部でもあるためマージンが十分に取れません。

患部を消毒します。

出来る限り腫瘍の外周のマージンを取るよう電気メス(モノポーラ)で切開を加えて行きます。

ある程度の切除のアウトラインをイメージして延長線上の針を抜去しましたが、周辺の針は電気メスの運行の障害となります。

腫瘍の表層部を縫合糸で牽引して(下写真黄色矢印)、腫瘍の基底部を電気メス(バイポーラ)でなるべく深くえぐるように切除します。

ハリネズミは頸背部から背部、腰背部にかけて分厚い脂肪層にガードされています。

腫瘍を切除しました。

摘出部の皮下脂肪層をさらにモノポーラで切除します。

前述したように皮下脂肪層が厚いため、どの程度の深さまで切除したら良いか難しい所です。

下写真は摘出跡です。

筋肉層があと少しで届くくらいまでメスを入れました。

最後は皮膚縫合です。

これも針に縫合糸が当たり、気を付けないと縫合糸が切れたりします。

なるべく細かくテンションを掛けながら縫合を終了しました。

皮下に乳酸リンゲルを輸液しています。

麻酔から覚醒したばかりのウニ君です。

手術は無事終了しました。

さて、2週間後のウニ君です。

抜糸のため、来院して頂きました。

縫合部には痂皮(かさぶた)が形成され、縫合糸はその中に埋没しています。

鉗子で痂皮を牽引してみました。

縫合糸ともに痂皮は綺麗に取れ、縫合部の皮膚は癒合完了しています。

ひとまず、肥満細胞腫の摘出は完了です。

ウニ君は今後、肥満細胞腫の再発がないか、経過観察が必要となります。

今回摘出した腫瘍です。

腫瘍の外周には皮下脂肪が巻き付いてます。

この腫瘍の病理組織像です(低倍率)。

さらに高倍率像です。

真皮域にシート状に配列する独立円形細胞の腫瘍性増殖が観察されます。

通常の皮膚に検出される肥満細胞数を超える細胞数が腫瘍内に検出されました。

結果、皮膚肥満細胞腫(中等度分化から低分化型)との診断を病理医から受けました。

ヨツユビハリネズミにおける皮膚肥満細胞腫の報告例は少ないです。

2005年のSeminars in Avian and Exotic pet Medicine誌における

A Review of Neoplasia in the Capture African Hedgehogという題目の論文上では

肥満細胞腫は世界でまだ3例しか報告されていないようです。

ハリネズミの世界では、まだまだ犬猫のように調べられていない疾病は多いのが実情です。

残念ながら、この手術の8か月後に今回の患部とは別の部位に肥満細胞腫が再発しました。

外科的敵手が完全に出来ないならば、化学療法を試すことに飼主様もご了解いただきました。

現在トセラニブという抗ガン剤(分子標的薬)を投薬させて頂いてます。

機会があれば、継続してウニ君の経過報告をさせて頂きます。

ウニ君、頑張ろうね!

 

 

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