こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのはセキセイインコの気嚢破裂と言う疾病です。

鳥の解剖学的構造は、哺乳類と比較して飛行するために特殊な構造をしています。

そもそも鳥には哺乳類のように横隔膜は存在せず、呼吸様式も横隔膜呼吸でなく、胸を膨らませるフイゴ式呼吸です。

そのため、鳥は胸を急に押さえることで低換気に至り死亡する場合もあります。

鳥に特徴的な構造として気嚢の存在が挙げられます。

気嚢とは肺から延長した空気の入る袋です。

鳥の飛行は肺による酸素供給だけでは賄えないほどのハードな運動です。

そこで空気を蓄えておく気嚢という袋が必要となりました。

気嚢の存在で常時、肺に空気が供給されるため、鳥は長時間飛行が可能になりました。

また長時間の飛行で体温が上昇した場合、気嚢から体熱を放散する効果も期待できます。

気嚢は鳥の種類により異なる場合もありますが、一般的に頚気嚢(無対)、鎖骨間気嚢(無対)、前胸気嚢(左右に一対)、後胸気嚢(一対)、腹気嚢(一対)が存在します(下模式図参照)。

セキセイインコのきいちゃん(1歳3か月、雌)は頸背部に大きな瘤があるとのことで来院されました。

下写真の赤矢印が腫大した頸背部です。

羽を分けて皮膚を露出すると下写真の赤丸のように皮下の膨らみが認められます。

触診するとこの膨らみは、流動性を持った内容物(水や膿)は入っておらず、腫瘍のように充実性の内容も認められません。

どちらかというと内容は空気でいわゆる皮下気腫です。

確認のため、レントゲン撮影を実施しました。

結果は以下の写真の通りです。

黄色矢印が示しているのが皮下に空気が溜まっている部位です。

皮下気腫が出来るというのは、気嚢が何らかの原因で障害を受けて空気が漏れ、皮下に貯留していることを表します。

この症状を気嚢破裂といいます。

前述のように気嚢は鳥の体内に分布しています。

障害を受けた気嚢の部位により気腫は、今回のように頸背部以外に喉や大腿部など予想外の部位に発生することもあります。

気嚢は気管支粘膜が膨らんでできた風船のようなものですから、極めて薄い脆弱な組織です。

気嚢が破れたとしても縫合するということは出来ません。

出来るだけ安静を保って、障害を受けた部位が自然治癒して塞がるのを待つ形になります。

自然治癒するまでの間は、気嚢から漏れ出た空気が皮下に貯留していきますから、注射針で皮下に穴をあけて空気を吸引する必要があります。

漏出した空気を吸引しないでおくと、気嚢の膨らむ余地が無くなりますから呼吸不全に陥ります。

結局、皮下に空気が溜まればその都度、空気を抜いて気嚢の障害の回復を待つという治療のスタイルを取ります。

下写真はきいちゃんの膨隆している皮下気腫を穿刺し、空気を吸引しているところです。

空気を抜いた直後の皮膚です。

若干の皮下出血が認められます。

きいちゃんの皮下気腫の空気抜去後は頸背部の腫れもなくなりスッキリしています。

気嚢の障害は様々です。

例えば、放鳥時にどこかにぶつかって、気嚢を損傷したりすることもあるでしょう。

気嚢炎になると呼吸不全から死亡する場合も出て来ますので、早めに内服で治療する必要があります。

きいちゃんは、暫く抗生剤や抗炎症剤の内服で気嚢炎治療も合わせて実施させて頂きます。

きいちゃん、お疲れ様でした!

 

 

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