こんにちは 院長の伊藤です。

本日ご紹介しますのは、犬の卵巣の腫瘍である顆粒膜細胞腫、さらに膣に形成されたポリープ状線維腫について報告させて頂きます。

シーズーのゆいちゃん(12歳7か月齢、雌、体重4.1Kg )は膣から何か出来物が飛び出ているとのことで来院されました。

下写真黄色丸がその飛び出ている腫瘤です。

まずは、この腫瘤がどんな組織か細胞診を実施しました。

針で穿刺したところ、非常に硬い組織であり、上皮性の線維芽細胞を中心とした腫瘤と思われました。

おそらくは膣の粘膜上皮細胞が腫瘤化したものであろうと考え、飼主様の同意のもと、外科的に摘出することとしました。

加えて、飼主様からゆいちゃんが高齢であり、近い将来的に産科系の疾患が起こらないように避妊手術も希望されました。

ゆいちゃんは、最近生理に伴う陰部からの出血が、一か月以上継続したりしていました。

早速、ゆいちゃんを全身麻酔します。

まずは、避妊手術を実施するため、下腹部に正中切開を加えます。

お腹の中を確認したところ、黄色矢印は腹腔内に貯留した腹水を示します。

青矢印は子宮頚部を示します。

本来、健常な状態なら腹水はありません。

今回、子宮角を少し骨盤側に牽引したところ、大きく腫大した右側卵巣が確認されました。

卵巣が凸凹に腫大しているのがお分かり頂けると思います。

卵巣動静脈をバイクランプでシーリング(熱圧着)します。

強く卵巣を牽引すると出血が起こりますので、慎重に行います。

シーリングが完了した部位を硬性メスで離断していきます。

次いで、左卵巣動静脈をシーリングします。

子宮間膜をシーリングしています。

両側卵巣及び子宮を体外に引き出します。

左卵巣は正常ですが、右卵巣はかなり大きいのが分かります。

腹筋の縫合完了です。

皮膚縫合完了です。

陰部からの突出した腫瘤です。

この腫瘤を摘出します。

腫瘤を鉗子で牽引します。

出来るだけ起始部に近い位置を縫合糸で結紮します。

バイポーラ(電気メス)及び硬性メスで離断します。

離断直後に腫瘤断端部は膣内に戻りました。

以上で無事、ゆいちゃんの手術は終了しました。

全身麻酔から覚醒したゆいちゃんです。

摘出した卵巣と子宮です。

腹側面です。

裏側の背側面です。

右卵巣の拡大です。

摘出した卵巣・子宮の総重量が134gありました。

体重が4.1kgなので、かなりお腹が重かったのではないかと思われます。

右卵巣の病理所見です。

軽度に異型性を示す多角形腫瘍細胞の充実性胞巣状・シート状の増殖巣が形成され、既存の卵巣組織は広範囲に置換されています。

同じ標本の中拡大像です。

高拡大像です。

腫瘍細胞は基底膜に対して柵状に配列し、中等量の好酸性微細顆粒状あるいは空胞状の細胞質、軽度に大小不同を示す類円形から楕円形の正染性核、小型の核小体を有しています。

病理所見からの診断名は顆粒膜細胞腫です。

顆粒膜細胞腫は卵巣の性索間質細胞由来の腫瘍性疾患です。

この腫瘍は、性ホルモンを産生して脱毛、非再生性素因、子宮内膜過形成などを誘発します。

最近のゆいちゃんの生理中の出血が長く続いたのも、これが原因と思われます。

なお、子宮については、子宮内膜上皮は過形成性に増生し、内膜固有層は肥厚していました。

子宮内膜過形成は卵巣ホルモンに依存する子宮内膜の増殖性変化です。

これもまた顆粒膜細胞腫が誘因となっていると推察されます。

下写真は、膣のポリープ状腫瘤です。

充実性の硬い組織です。

中等度の拡大像です。

異型性に乏しい紡錘形細胞の錯綜状・花むしろ状・充実性シート状の増殖巣から構成され、腫瘤表面は潰瘍化しています。

高倍率像です。

増殖細胞は豊富な好酸球性細線維状細胞質、大小不同に乏しい類円形から楕円形の正染性核、小型の核小体を有しています。

今回の観察された病変は膣ポリープと言われる良性病変です。

未避妊雌に発生することが多く、卵巣ホルモン依存性の増殖性病変と考えられます。

これも発生原因として、顆粒膜細胞腫が関与していると思われます。

結論として、避妊手術はなるべく早期に行うべきです。

ゆいちゃんの術後の経過は良好です。

ゆいちゃん、お疲れ様でした!

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