ヘビの顎口虫感染
こんにちは 院長の伊藤です。
本日ご紹介しますのは、ヘビの寄生虫感染の1例です。
寄生虫の中で線虫類に分類される寄生虫のひとつに顎口虫(がっこうちゅう)があります。
生態系において寄生虫は各種生活環を形成します。
顎口虫の場合、虫卵は水中で孵化し、第一中間宿主のケンミジンコに取り込まれます。
そして、ケンミジンコを捕食した第二中間宿主である淡水魚(ライギョ、ドジョウ、フナ、ナマズ、ブラックバス、ソウギョなど)の体内で虫卵から幼虫へと成長していきます。
最終的に、この淡水魚を捕食した終宿主である犬、猫、豚などの体内(胃壁)で成虫となり産卵します。
この生活環でヘビやカエルの位置づけは待機宿主と呼ばれ、爬虫類や両生類の体内で顎口虫は成長はしませんが、他の動物への感染の機会を増やすため役割を持ちます。
ヒトも待機宿主になり、淡水魚を生食することで感染し、体内に入った幼虫は、胃の壁を食い破って肝臓に達し、その後は体内を自由に動き回ることになります。
そして、身体の表面に近い部位に移動することにより、皮膚に顎口虫症特有の爬行疹(寄生虫の這い回った痕跡)が外部から認められます。
加えて、幼虫は長期間にわたり生存し続け、臓器、脊椎、脳、眼球に侵入することもあります。
その結果、脳障害や失明といった重大な症状を引き起こすこともあり、淡水魚の生食の危険性を思い知らされます。
そんな生活環を持つ顎口虫ですが、ヘビの口腔内で見つかるケースが多いです。
今回は、飼主様が近所で捕獲したアオダイショウを診察しました。
アオダイショウ(性別・年齢不明 体重98g)の口腔内で移動する数個の物体が認められるとのことで来院されました。
下写真黄色丸がその物体です。
写真のフォーカスが甘いため、見づらくて申し訳ありません。
下写真は、右下顎の口腔部に認められる黒い物体を拡大しました。
加えて、右上顎部の物体をピンセットで摘出しました。
活動性の高い寄生体(下写真黄色丸)であり、どんな寄生虫か確認します。
寄生虫の全長は3~4㎜でおそらく成虫でなく、幼虫期のステージにあります。
線虫の仲間であり、顎口虫の幼虫であることが判明しました。
アオダイショウの口腔内の炎症は特に認められませんでした。
拡大像です。
顕微鏡の低倍率像です。
顎口虫の尾部です。
下写真は胴体部です。
下写真は頭部であり、黄色丸は産卵した虫卵を示します。
虫卵の拡大図です。
顎口虫は、日本顎口虫、有棘顎口虫、剛棘顎口虫、ドロレス顎口虫に分類されます。
ヘビの生食で顎口虫感染例が挙げられるのが、日本顎口虫とドロレス顎口虫です。
今回のこの顎口虫は、そのいずれかであると思われます。
ヘビは顎口虫の生活環では待機宿主となるため、ヘビの体内で幼虫が生育することはなく、ヘビ自身に重篤な疾病をもたらすことはないと思われます。
現在は、獣医学的観点よりは人医的にヒトに寄生した顎口虫が皮膚爬行症を起こしたり、異所寄生(眼や脳)による脳障害・失明などの問題が取り上げられています。
いづれにせよ、寄生虫感染の生活環は非常に巧妙に仕組まれています。
我々人間も、待機宿主という存在で顎口虫の感染経路を担っていると思うと生態系の中では、ひとつの歯車に過ぎないと気づかされます。
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