こんにちは 院長の伊藤です。

本日、ご紹介しますのは犬の尿石症です。

以前にも犬の尿石症(シュウ酸カルシウム尿石症)について報告させて頂きました。

シュウ酸カルシウム尿石症についての概論はそちらを参考にして下さい(左下線をクリック)。

チワワのラル君(4歳5か月齢、去勢済、体重3.6kg)は排尿時の疼痛、血尿が続くとのことで来院されました。

まずはレントゲン撮影を実施しました。

下写真で、膀胱内(黄色丸)に結石が確認されます。

直径が3㎜大の膀胱結石が十数個確認出来ました。

尿検査上、ストルバイト結晶やカルシュウム結晶といった膀胱結石のもとになるような存在は認められませんでした。

ラル君は3年ぐらい前から不定期に排尿の疼痛、頻尿を呈していたとのことです。

今回、この数ミリ単位の尿石を外科的に摘出して、尿石の分析を行い、術後の食餌療法を考慮させて頂くこととしました。

まずはラル君に全身麻酔を施します。

患部を剃毛します。

気管挿管後、ラル君の麻酔はしっかりかかっている状態です。

膀胱を切開し、尿石を摘出しますが、場合によっては膀胱内の尿石が移動して尿道に降りてくる可能性もありますので尿道カテーテルを挿入します。

雄の場合は、ペニスが正中部に存在しますので、ペニスを迂回して皮膚を切開します。

ペニスの傍らに走行している浅後腹壁動静脈を結紮し、周囲組織を剥離していきます。

腹筋を切開します。

蓄尿している膀胱を腹腔外へと牽引します。

膀胱内の圧を下げるために尿を注射器で穿刺吸引します。

次に膀胱に支持糸をかけます。

11番メス刃で膀胱壁を切開します。

切開部を鉗子で広げます。

この段階で膀胱内にいくつかの尿石が存在しているのが、触診で分かります。

鉗子で尿石を1個づつ摘出していきます。

加えて、尿道カテーテルを通して膀胱内へ生食注入します。

これは、すべての結石を残さず摘出するため、尿道付近に移動した結石を膀胱内へ戻す意味もあります。

術前にレントゲン上で確認された尿石の数が全て摘出出来ました。

念のためにレントゲン撮影を実施します。

下写真で膀胱内の結石は全て摘出されたのが分かります。

次いで、膀胱の切開部位を合成吸収糸で縫合します。

ここでしっかり縫合できているか、リーク(漏出)試験を行います。

先に入れてある尿道カテーテルから生食を適量注入して、膀胱を膨らませて、縫合部からの漏れを確認します。

特に患部からの漏れはなく、念のため2重内反縫合(クッシング―レンベルト縫合)を行いました。

これで、膀胱の縫合は終了です。

腹筋、皮下組織、皮膚と縫合を終えました。

麻酔を切り、半覚醒状態のラル君です。

下写真は術後3分のラル君です。

無事、手術は終了しました。

下写真は今回摘出した尿石です。

結石の分析を検査センターに依頼したところ、98%がシュウ酸カルシウムで構成された結石と判明しました。

シュウ酸カルシウム結石については、現在のところ効果的な内科的溶解療法はありません。

従って、外科的(今回のような膀胱切開術)もしくは非外科的(膀胱鏡を挿入して把持鉗子で摘出する)などの方法で対応するしかありません。

実際、今後ラル君の尿石症が再発する恐れもあります。

シュウ酸カルシウムを予防するためには水分摂取量を増やすこと、フロセミド(利尿剤)、ビタミンCやD、尿酸化剤などの投与を避けることが重要です。

それでも再発傾向があるなら、クエン酸カリウム、ビタミンB6やサイアサイド利尿剤(ヒドロクロロチアジド等)を投与して、尿pH を7.0~7.5でシュウ酸カルシウム結晶陰性を目指します。

ストルバイト尿石ならば結石を溶解させる療法食も存在します。

シュウ酸カルシウム尿石の場合は、完成された療法食が存在しないため、定期的な尿検査のモニタリングが必要です。

大変ですが、今後外科的手術は回避するよう頑張りましょう!

ラル君、お疲れ様でした。

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