アルゴンプラズマ凝固法(APC)を使用してみました。
手術を実施する中で気を使うのが、止血です。
特に出血層が浅い患部で、湧水のごとく出血している場合などは、電気メス(モノポーラ・バイポーラ)でも完全に止血が完了しないこともあります。
今回、当院でエルベ社の電気メスを使用している関係で、オプションとしてアルゴンプラズマのスプレー凝固を試用させてもらいました。
ミニチュア・ピンシャーのルーシーちゃんは、乳腺腫瘍が見つかり今回、避妊手術と乳腺腫瘍摘出手術を実施することとなりました。
乳腺腫瘍の手術では、術後もジワジワ出血が続く症例もありますので、このアルゴンプラズマを使用することとしました。
上写真の黄色丸の部分がプラズマが放電しているところです。
一般に電気メスでは患部とメスが物理的に接触する点のみでの止血となります。
しかし、スプレー凝固(放電凝固)では、通常よりも高い電圧をかけることで、抵抗の高い空気中にスパークを飛ばす非接触的な面で凝固する方法です。
電離しやすいアルゴンガスは、高電圧のスプレー凝固出力によってイオン化したプラズマとなり、電極と組織の間に電圧を通す媒体となります。
難しい話はこれくらいにして、使用感としては溶接用のバーナーで炙るような感じです。
気をつけないと、あっという間に広範囲を炙ってしまいますので要注意です。
下写真の黄色部分のように一部、炭化した箇所が認められます。
止血完了を確認後、ガーゼで優しく取る事は可能です。
乳腺腫瘍摘出手術は従来、何ヶ所も血管を結紮止血して対応してきましたが、このAPCは瞬間的に止血できてしまうのは手術時間の短縮化につながり便利です。
エルベ社のバイクランプにしても、一度使用するともう縫合糸で動脈を結紮することが煩雑に思えてきて、大局的にみると患者のためにはなるけど、自分の外科技術の研鑽にはつながらないようにも思えます。
しかし、技術革新とはこのような小さなことの積み重ねで進歩するわけですから、受け入れて動物たちに還元できる技術なら進んで取り込んでいきたいと思います。
ルーシーちゃんのこの避妊と乳腺腫瘍の手術にしても、あわせて90分とかかりませんでしたので非常に好感触です。
ルシーちゃん、お疲れ様でした!